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「暁くん」
「……!」
少しだけ顔を寄せて、目を閉じる。暁くんは息を詰まらせたような声を出すと同時に、繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
かさ、と服が擦れる音が聞こえる。彼が動き出した音だ。僕の頬に触れた手が微かに震えていて、つられるように僕も吐息が震えてくる。
破裂しそうなくらいに、心臓が痛かった。たったの一秒でも、ものすごく長い時のように感じる。こんなにも唇を重ねたいと衝動に駆られる日が今の僕にくるなんて、信じられなかった。今は何もかもを忘れて、彼に触れたい。自分でもびっくりするくらいに、彼のことしか考えられない。無我夢中で、彼に恋をしている。
「――ン?」
あと少し、少しで重なる――。彼の吐息を感じた瞬間、低いバイブ音が響く。思わず目を開ければ……暁くんは口惜しそうな顔をしていた。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ゆっくりと僕と距離を取り、ポケットからスマートフォンを取り出す。
「……いや、あの、タイミング……た、タイミング悪いにもほどが……あの野郎、覚えてろ佐野! すみません朝霧さん、電話してきます……」
「……あ、うん」
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