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「へっ……、あ、ああ……眞希乃さんが入院している間にも、何回か来てくれたので……あはは……」  眞希乃さんの言葉に、ドキリとする。まさか何回か部屋に招いてキスまでした仲だなんて彼女は夢にも思っていないだろう。あからさまに動揺している僕を見て、暁くんは苦笑いをしていた。 「――ところで朝霧さん、花束なら、来週ここで買おうと思ってるんです」 「え、そ、そうなんだ!」  暁くんは助け舟を出すように、話を逸らしてくれた。笑いをこらえている様子を見ると、僕の考えていることはわかっているのだろう。年下の彼に気を使われていることを恥ずかしく思いながらも、僕はありがたくその舟に乗っておく。 「……誰かにあげるの?」 「はい。サークルの友達の誕生日パーティーがあって、俺が花束係になりまして」 「ふうん。女の子? 男の子?」 「女の子です。なんの花がいいですかね」 「うーん……そうだなあ。好きな色の花とか、あと……誕生日によっては誕生花とかもありかも」 「誕生花……なるほど。十月四日だから……サルビア? 花束……には向いていないかな?」 「……誕生花わかるんだ?」 「朝霧さんとお近づきになるために花のことめっちゃ勉強してるんで!」 「あはは……すごいなあ。……そうだね、サルビアだと花束にしづらいから、もうひとつの誕生花のホワイトレースフラワーとか使ってみようか。どんな花にも合わせやすいし、花言葉は「可憐な心」「感謝」……贈り物にもぴったりだよ」  誕生花と言えばかなりのが種類があるから、覚えるとなると大変だ。それをこの短期間で覚えるとは、さすがR大学の学生というべきか、それともそんなに僕のことが好きなんだとときめくべきか。どちらにしても、素直に彼のことをすごいと思う。  そんな暁くんは、僕の言葉を受けてガラスケースに陳列している花からホワイトレースフラワーを探し出し、「いいですね、可愛い」と呟いていた。花に対して優しい声で「可愛い」と言った暁くんになんとなくきゅんとしてしまったが、眞希乃さんの手前、顔に出さないように無表情を貫いておく。 「あ、ちなみに朝霧さんの誕生日っていつ?」 「五月二十二日だよ」 「誕生花は……レモンの花だ!」 「正解。すごいね、暁くん」 「学生の勤勉さなめちゃいけませんよ。あ、でもレモンの花って花言葉なんでしたっけ」 「……学生なんだから自分で調べなさい」 「うへえ、はあい」  時間も閉店に近づいてきたので、締めの作業を始める。眞希乃さんに話しかけたり、花を眺めたりして帰る様子のないところを見ると、今日も僕たちと一緒に夕食を食べるつもりなのだろう。もう少し彼と一緒にいられることを嬉しいと思っている自分がいて、慣れない感覚に僕は戸惑っていた。

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