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「……ゴム?」 「コンドーム」 「なっ――……」  暁くんは僕の絶句に気付いているのかいないのか、何食わぬ顔で名刺ケースを受け取って鞄にしまう。  ……動揺している僕のほうが、たぶんおかしい。男なら、コンドームくらい持っていてもおかしくない。僕も、紋さんとお付き合いしているときは、持ち歩いていた。  ただ、暁くんにそういう意思があるとはっきり知ってしまうと、やはり意識してしまう。彼が無理矢理してくるような人ではないとわかっているが、その行為自体にしり込みしてしまうのだ。 「め、名刺ケースにいれて持ってるんだ~……」 「財布とかはマズイらしいですよ。ゴムが小銭とかで傷ついちゃうんですって」 「へ、へえ~……」 「まあ、でも袋も結構しっかりしてますしね。財布にいれたからってそうそう破けたりしないと思いますよ。念のためです。あ、朝霧さん、何か飲みます?」 「えっ――あ、えっと、お、お茶……」  暁くんが買ってくれたお茶を受け取り、一気飲みする。やたらと、喉が渇く。今日の今日で、ということはないと思っても、これから彼を僕の部屋に招くことを考えると緊張してしまうのだ。 「あー、朝霧さん」 「……ん?」 「今日肌寒いのに、なんかめっちゃのど渇きますね。俺も一気飲みしちゃった」 「……、あ、そ、そう……」  へへ、と困ったように笑っている彼の顔が、夜光に照らされて――目眩がするほどに、心臓が高鳴った。

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