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 今の自分の状況を彼に伝えるのは、心苦しかった。しかし、彼が優しく尋ねてくれたので、すんなりと本当のことを口にすることができた。抱きしめられて、頭を撫でられて、安心しきっていたというのもあるのかもしれない。 「……どうしても、人を好きになることが、怖いんだ。もう大丈夫って思っていたけれど、こんなところでまた尻込みしちゃって……情けないな、僕」 「そんなことないよ。やっぱりそういうのって、難しいもん。俺も……うん、そう、俺も、今でも悩んでいる。さっき考え事してるって言ったでしょ? あれね……俺、昨日、亡くした彼女……鈴音のご家族に、食事に誘われたんです。鈴音は幼馴染で家族ぐるみの付き合いがあったから、家族も一緒に食事に行くことが以前から何度かあったんですけど、鈴音が亡くなってからはこれが初めてで。別に、家族の方は俺のことをどう思ってるってわけじゃないんですけど、……俺、今の自分に罪悪感を覚えちゃって。朝霧さんのことが好きな自分を、薄情な奴だって思っちゃった自分がいて……そんな自分が、すごく、嫌だった」 「……暁くん」 「朝霧さんのことが好きなのに。大好きなのに……俺、迷ってる。朝霧さんのことが好きになればなるほどに、苦しい」  暁くんも、僕と同じように痛みを抱えている。彼の言葉ではっとする。もしかしたら、彼が急に僕に迫ってきたのは、そんな「焦り」があったからなのかもしれない。わざわざそれを尋ねるつもりはないが、きっとそう。  僕は、僕を撫でる彼の手に頬ずりをした。そうすれば暁くんは、息を呑んで、「朝霧さん」と掠れた声で囁く。 「暁くんも僕も……必死なんだね」 「……必死、」 「そんなに苦しいなら、恋なんてしなければいいのに。逃げちゃえば、楽だったのに。それなのに……こんなにも、」  顔をあげる。彼とばちりと目が合って、瞳が震える。  この暁くんの表情を、なんと表現すればいいのだろう。ゆらめく炎のような涙が、瞳を覆っている。涙に閉じ込められた光が、遠い夜空に揺蕩う星のように哀しい。僕を見つめるその瞳が、僕だけを見つめていて、僕の憶病な心臓を捕らえて離さない。  言葉が出なかった。唇は動いたのに、胸がいっぱいになって声は出なかった。けれど、暁くんはそんな僕の声にならない声を受け止めたように、飲み込むように――僕に、キスをしてくれた。  

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