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「ん……」  唇が離れると、吐息が溢れる。唇の上で薄れてゆく熱が切なくて、「もっと」と無意識に言葉が零れゆく。もう一度、唇を奪われた。もう二度、唇を奪われた。もう三度、もう四度。たまらない、離れたときの恋しさ、重なった時の愛しさ、たまらない、たまらない……息苦しさ、胸の痛み――僕を(さいな)めるすべてがたまらなく狂おしい。 「可愛い、朝霧さん……」 「んっ……、……ん、……」  暁くんが僕の唇に食らいつく。唇を舐められて、ぞくん、と胸が震えて、僕は蕩けてゆくように唇を開く。ゆるりと入り込んできた彼の舌が、僕の寂しげな舌を絡めとる。悦びに震える僕の心が、僕の体を(しな)らせる。 「……ん……」  情欲とも、きっと違う。酔いともきっと違う。彼のキスに感じたこの感覚――心のこわばりが静かに溶けてゆくこの感覚を、僕は知らない。痛みを、別の感情で塗りつぶすのではなく。痛みの叫びを、聞かぬふりをするのではなく。痛みに直接触られて、撫でられ、慈しまれ、そして分け合う――このキスに、そんな温かさを感じる。心も、体も……何もかも、蕩けてしまいそう。  ずっとしていたい……そう思って、彼の背中に腕を回す。こんなにも温かくて、ゆるやかで、甘くて、幸せなキスならば、夢よりも堕ちてゆきたい。

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