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「あ……」
唇が離れて呼吸を取り戻すと、甘やかな水音が幽かに鼓膜を掠める。いやらしいその音が、透明な余韻になって切なさを生んだ。絡み合ったばかりの舌が寂しくて、泣きたくなる。
足りなくて、もっと唇を塞がれていたくて、彼の唇を追いかけようとした。しかし、ぱかりと瞼を開くと視界に飛び込んできた彼の表情に、息が止まる。
――暁くん、きみはなんて表情をしているの。
「朝霧さん」
「ん……?」
「……俺、朝霧さんと……セックスしたい」
暁くんは懇願するように、祈るように……切り出した。その声が命を引き千切るような声で、聞いている僕が苦しくなる。
彼は苦し気に目を閉じた。そして僕と額を合わせると、甘えるように擦り合わせてくる。
「好き、なんです。朝霧さん、俺、朝霧さんのことが好きなんです。でも、頭の中がぐちゃぐちゃになって、焦りばっかり感じちゃって……俺、どうしたらいいのかわからない。わからなくて、朝霧さんのことが欲しいって、そればかり考えているんです。朝霧さん……ごめん、ごめんね……俺、朝霧さんのこと……」
暁くんはぽたぽたと涙を落としながら、心を吐き出した。僕の頬を転がり落ちてゆく彼の涙が、僕の胸に沁み込んでゆくようだった。
「暁くん……」
彼の焦りは、いやというほどに感じることができた。そしてその焦りは、いやというほどに理解できた。拭い去ることのできない痛みと、痛みを増すほどに強くなってゆく恋情が、心を急き立てる。こうして涙を堪えることもできないくらいに……それは、苦しい。ああ、知っている。これはきみが教えてくれた、恋の痛み。
「……いいよ。泣かないで、暁くん。……セックス、しよう」
「え、……でも、朝霧さん」
「うん……。僕は、セックス……怖い。でも、怖いけど、したい。暁くんと、そういうこと、したい。……だから、」
「……はい、」
「……暁くんに、リードしてほしい」
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