85 / 109
20
*
もう、時刻は十二時を超えていた。海の底にいるような気怠さに身を任せて、僕は暁くんの腕に頭を乗せて、微睡む。
暁くんは僕のつむじに顔をうずめて、ずっと僕の体を指先で撫でていた。僕の肌と彼の肌がすっかり溶け合っているのを感じると、ああ、彼としたんだな、と実感する。体温を交わらせていることが、息をするように自然なことのように感じるのだ。
「……朝霧さん」
「ん……?」
暁くんが僕の名前を呼ぶ。暗闇の中に優しいその声は、ずいぶんと耳に馴染んだと思う。
「……エッチ、楽しかったですか?」
「……、」
僕が顔をあげると、暁くんが真剣な目で僕を見つめていた。
僕は額をこつんと合わせて、彼と距離を詰める。鼻先が触れ合って、暗闇の中でも彼の瞳の揺らぎがはっきりと見えた。
「うん……暁くんとのエッチ、楽しかった」
彼の問に、否定の言葉を返す理由が、何一つなかった。彼に触れられて、自分の知らない自分を知ったこと。乱れてしまう自分を、愛おしく思ったこと。彼の表情の、声の、熱のすべてが狂おしかったこと。無我夢中でした彼との行為は、すごく、楽しかった。
暁くんは僕の言葉を聞くと、嬉しそうに微笑んだ。「よかった」と吐息を零すように囁いて、僕をもう一度ぎゅっと抱きしめてくる。
「俺、頭の中がぐちゃぐちゃしていて、朝霧さんに触れるのが少し怖かった……でも、よかった……朝霧さんが楽しかったなら、よかった……」
「……、暁くんは? 楽しかった?」
「……うん。朝霧さんに触れるたびに、俺が……朝霧さんのことがどんなに好きなのかを思い知った感じがして……すごく、よかった。俺、本当に……朝霧さんのこと、……ああ、本当に……」
「愛してる」、囁いて、暁くんは頭を摺り寄せてくる。
お互いの恋に、罪悪感を抱きながら、僕たちはそれでも恋をして。喘ぎながら、少しずつ救われていって。僕が彼に救われているように、彼が僕に救われているのなら、これ以上幸せなことはないだろう。
僕も、きっと、彼とならば――いつか、夜明けを見ることができるような気がする。
「暁くん」
「……はい」
「……また、しよう。いつか、暁くんと……最後まで、したい」
「……っ、……でも、朝霧さん」
「うん……。僕は、……触れることが、まだ、怖い――けど。でも、キスだって、こんなにいっぱいできるようになったから……だから、」
暁くんが、彼自身を責める日に終わりがきてほしいと祈るように。僕も、僕自身を許す日が来ることを、願う。
「……はやく、きみに、抱かれたい」
夜の帳 。恐れるばかりだった暗闇に、祈りを浮かべる日が来るなんて、あの頃の僕は知らなかった。
ともだちにシェアしよう!