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*  もう、時刻は十二時を超えていた。海の底にいるような気怠さに身を任せて、僕は暁くんの腕に頭を乗せて、微睡む。  暁くんは僕のつむじに顔をうずめて、ずっと僕の体を指先で撫でていた。僕の肌と彼の肌がすっかり溶け合っているのを感じると、ああ、彼としたんだな、と実感する。体温を交わらせていることが、息をするように自然なことのように感じるのだ。 「……朝霧さん」 「ん……?」  暁くんが僕の名前を呼ぶ。暗闇の中に優しいその声は、ずいぶんと耳に馴染んだと思う。 「……エッチ、楽しかったですか?」 「……、」  僕が顔をあげると、暁くんが真剣な目で僕を見つめていた。  僕は額をこつんと合わせて、彼と距離を詰める。鼻先が触れ合って、暗闇の中でも彼の瞳の揺らぎがはっきりと見えた。 「うん……暁くんとのエッチ、楽しかった」  彼の問に、否定の言葉を返す理由が、何一つなかった。彼に触れられて、自分の知らない自分を知ったこと。乱れてしまう自分を、愛おしく思ったこと。彼の表情の、声の、熱のすべてが狂おしかったこと。無我夢中でした彼との行為は、すごく、楽しかった。  暁くんは僕の言葉を聞くと、嬉しそうに微笑んだ。「よかった」と吐息を零すように囁いて、僕をもう一度ぎゅっと抱きしめてくる。 「俺、頭の中がぐちゃぐちゃしていて、朝霧さんに触れるのが少し怖かった……でも、よかった……朝霧さんが楽しかったなら、よかった……」 「……、暁くんは? 楽しかった?」 「……うん。朝霧さんに触れるたびに、俺が……朝霧さんのことがどんなに好きなのかを思い知った感じがして……すごく、よかった。俺、本当に……朝霧さんのこと、……ああ、本当に……」  「愛してる」、囁いて、暁くんは頭を摺り寄せてくる。  お互いの恋に、罪悪感を抱きながら、僕たちはそれでも恋をして。喘ぎながら、少しずつ救われていって。僕が彼に救われているように、彼が僕に救われているのなら、これ以上幸せなことはないだろう。  僕も、きっと、彼とならば――いつか、夜明けを見ることができるような気がする。 「暁くん」 「……はい」 「……また、しよう。いつか、暁くんと……最後まで、したい」 「……っ、……でも、朝霧さん」 「うん……。僕は、……触れることが、まだ、怖い――けど。でも、キスだって、こんなにいっぱいできるようになったから……だから、」  暁くんが、彼自身を責める日に終わりがきてほしいと祈るように。僕も、僕自身を許す日が来ることを、願う。 「……はやく、きみに、抱かれたい」  夜の(とばり)。恐れるばかりだった暗闇に、祈りを浮かべる日が来るなんて、あの頃の僕は知らなかった。

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