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「……ねえ、朝霧さん」
「ん?」
暁くんが手を伸ばし、僕の手を軽く掴む。前髪の隙間から覗く彼の瞳は、どこか甘ったるく、そしてゆらりと仄かな影が揺蕩 っている。
どうしたのだろうと顔を寄せてみれば、暁くんは僕にしか聞こえない声で、
「今日も、朝霧さんの家に行っていい?」
と囁いてきた。
「……!」
もちろん構わないけど、と答えようとしたところで、気付く。昨日の様子と、そして今の様子。暁くんの表情に浮かんでいる不安気な影が、似ていた。僕への想いに悩み、そして、焦って――。そんな彼が僕に求めていることは、たぶん、昨日と同じこと。
ここで「いいよ」と答えることが意味することに気付いて、一瞬僕はたじろいでしまったのだ。構わない、構わないが、少しだけ恥ずかしいと思ってしまったり。けれど、僕の中に断るという選択肢はなくて、僕は顔の火照りを感じながらも答える。暁くんの頭にそっと手のひらを乗せて、撫でて。
「うん、おいで。待ってるから」
「――……」
暁くんの瞳が、安心したように和らいだ。
暁くんは体を起こし、笑う。その笑顔が色っぽく感じて――ああ、今、彼は頭の中で僕を抱いているのだろう、そう思って体が熱くなる。
「ありがと。今日は、サークルがあるから十時くらいになると思います」
「……うん、大丈夫」
「じゃあね、朝霧さん。またあとで。……お仕事、頑張ってください」
暁くんは眞希乃さんにも声をかけると、店を出て行った。夜への不安と期待、それが入り混じったような彼の背中は、頼りないようで大きい。僕よりも年下だけど、僕を抱く男の人。切なさと高揚、二つの熱が僕の中で揺れる。
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