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「……玲維くん、いつから暁くんと? なんにも教えてくれなかったじゃない」
「……、」
暁くんの背中を見送った眞希乃さんが僕に声をかけてくる。けれど、僕はその問に答えることができなかった。いつから、と問われて僕は言葉に詰まってしまったのだ。すっかり彼と親密になったつもりでいたけれど、僕は彼に何かを伝えたというわけでもないし、この関係に名前がついているわけでもない。
ああ、そうだ、僕は彼に与えられているだけだ。
「眞希乃さん……」
「うん?」
「……僕と暁くんって、……まだ何も、始まっていないんです……」
暁くんが、悩んでいる理由。それは、僕のせいでもあるのかもしれない。僕を好きになっていいのか、僕を好きでいていいのか――。彼はあんなに苦しんで、それでも僕に恋をしてくれているのに、僕は何も返さない。僕は憶病に震えているだけで、何もできていない。
「……玲維くん」
外から風が吹き込んでくる。花の香りが渦巻いて、微かに僕の髪を揺らす。
眞希乃さんが髪を耳にかけて、目を細めた。花の香りを纏った風にくすぐられた僕の胸に、彼女は優しく言う。
「始まっているから、悩んでいるんでしょう?」
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