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今日は一日中、ぼんやりと暁くんのことを考えていた。花に触れていても、人と話をしていても、彼のことばかりが頭に浮かんでくる。
暁くんに、焦らせてしまっている。暁くんの亡くなった恋人や紋さん、彼の焦りの原因は様々なことが重なって生まれたものに見えるが、ああして彼が思い詰めるようになってきているのは恐らく、僕が逃げ腰でいるせい。僕だって、彼を傷つけることになるかもしれないと、彼のこれからの時間を奪ってもいいのだろうかと、悩みを抱えているが、僕は彼の支えがあるから前を向いていられる。けれど、僕が彼を支えられているのかといえば……そうではない。
「……はあ、」
ハーブティを淹れながら、あと少しでやってくるであろう暁くんのことを悶々と考える。爽やかな香りを嗅いでいると、胸のつっかえが少しずつ引いていくが、僕の中で答えがでるということはない。
せめて、僕の気持ちだけでも彼に伝えられればいいのだけれど。今まで言おうとしても言葉にできなくて、きっと彼を不安にさせている。ただ一言、彼への想いを口にすることが、どうしてこんなにも難しいのだろう。
「――……!」
ドアの、チャイムが鳴る。時計をみると、十時を過ぎていた。
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