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「――おかえり、暁くん」  ドアロックを外して扉をあければ、そこにはやはり暁くんがいた。暁くんは僕を見るなりきょとんとした顔をしてぱちくりと瞬きをする。 「……暁くん? どうしたの?」 「……いや、おかえり、って……」 「あ、」  暁くんに指摘されて、僕はハッとした。今朝、彼がここから出て行って、そしてまた今夜もここに帰ってきたものだからつい「おかえり」と言ってしまった。恥ずかしくなって僕が苦笑いをしてみれば、暁くんはふっと笑って「ただいま」と言ってくれる。はにかむようなその笑顔に、胸がぎゅっとにぎられたようにときめいた。 「このまま、ここに住んじゃいたいな、俺。毎日、朝霧さんに「おかえり」って言ってもらうの」 「ええ、そんなの、だめ――……」  暁くんは追撃するように僕の心臓を叩くようなことを言ってくる。僕はつい、反射的に「だめ」と言ってしまったが、そこで何かが引っかかった。  せめて、せめて、僕の気持ちを知って欲しいと、ずっと考えていたじゃないか。天邪鬼のようなことばかり言っていては、きっとだめだ。 「――だ、だめだよ、今のうちは……そ、その……もう少し、大人になったらというか……今は暁くんは学生なんだから、勉学をですね、その」  けれど、上手く、言葉にできない。毎日、「おはよう」と「おやすみ」を言い合える関係になりたいと、それだけのことをどうして言えないのだろう。「一緒に住んでほしい」、その言葉が酷く重い言葉に思えてきて、綺麗な言葉にすることができない。  僕が自分自身にうんざりしていると、暁くんは僕の目の前までやってきて、僕を見上げてきた。僕だけが上がり口に乗っているので、珍しく僕の方が目線が高い。少し新鮮な光景にきゅんとしていると、暁くんが僕の胸に頭を擦りつけるようにして抱きついてきた。 「じゃあ、待っててくれる? 俺が大人になるまで、ずっと」

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