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 暁くんの声は、震えていた。  ふと、思う。待つ方と、追いかける方――どちらが、苦しいのだろうと。いつの間にか僕が暁くんにとって「待っていてほしい人」になっていたが、彼は僕を追いかけて苦しくないのだろうか。僕は待っている方でいいのだろうか。  ずっと、僕は走ってくる彼を待っているだけだった。逃げて、止まって、また逃げて、それで僕は苦しんでいるつもりだった。でも――こんな僕をひたすらに、ただひたすらに追いかけてくる彼は……どんなに苦しいのだろう。 「暁くん」  軽く、暁くんの肩を押す。暁くんがきょとんとして後退して、僕を見上げた。僕は上り口から降りて、暁くんの目の前に立つ。そして、彼の腰に腕を回して、彼の胸に飛び込んだ。 「――あ、……朝霧さ、」 「……僕は、もう、きみの腕のなかにいるよ。だから、焦らないでいいから」 「……っ」 「……ね、……暁くん、……抱きしめて欲しいな」  彼ばかり、苦しんで。彼ばかり、焦って。たくさんのものを与えられて、それなのに僕は何も彼にしてあげられなくて。ただ抱き着くだけでも胸が張り裂けそうになるほどに息が苦しくなる。でも、彼はもっと、もっと僕に触れてきた。僕の(こころ)を震わせるほどに、僕を熱で蕩かしてくれた。  今度は、きっと、僕が。  ぐ、と背中に腕が絡んで、きつく抱きしめられる。骨がきしむほどに強い抱擁に、内臓が震えるような多幸感が溢れてきて、自然と吐息が漏れた。

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