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つん、と脳天が穿たれたような感覚を覚えた。もっと、と唇から零れそうになったのを、なんとか堪える。言ってしまえば、抑えが効かなくなってしまいそうだったからだ。理性がなくなって、ぐずぐずに彼に堕ちていってしまいそうになるから。
「あ、暁くん……」
それを、悪いことだとは思わない。けれど、今の僕は体の本能のままに彼を受け入れたい、というわけじゃない。もちろん、彼の体が欲しいと思う気持ちも僕の中では大切なものだが、そういうことではない。
僕は彼にしがみつきながら、もう一度、ゆるく彼に腰を擦り付ける。びく、と震えた暁くんの髪の毛をゆっくりと掻き撫でて、彼と目を合わせる。
「ねえ、暁くん……ここじゃなくて、……ベッドで、しよう」
「――……っ、朝霧さん、」
「……暁くん。……抱いて。今日は、……最後まで」
唇が震える。体だけじゃない、僕の心の奥から、この気持ちを彼に伝えたかった。
今まで、ずっと言えないでいた。自分自身が恐ろしくて、彼に触れるのが恐ろしくて。けれど、彼とひとつになりたいという気持ちはずっとあったのだ。彼にならば、どんなことをされてもいいと、心からそう思っていた。
暁くんはぐ、と唇を噛んで押し黙る。瞳孔が、少し開いている。今にも崩れ落ちそうな熱を、その薄い皮膚の中に押しとどめて、じっと僕を見下ろしている。見つめられているだけで心臓が壊れてしまいそうな、そんな緊張が空気を震わせている。
「……いいんですか?」
「……うん」
「最後まで、って意味はちゃんとわかりますか」
「……僕、きみより年上だよ? それくらい……もちろん」
もう一度、僕から口付けをする。触れるだけの、口付けを。
「僕は、暁くんのものだから。だから、心だけじゃなくて、体もきみのものにして欲しい。僕が、少し怖がったとしても、手を引いて最後までして欲しい。……おねがい、暁くん」
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