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第2話
知矢がときめきとちょっぴりの不安を抱えながら、典夫の隣で歩いていると、後ろから声がかけられた。
「典夫くん!?」
「え?」
名前を呼ばれた兄が振り返り、それにつられて知矢も振り向く。
声をかけてきたのは三人の女の人。
綺麗にメイクをし、お洒落に着飾っている。
「……ああ」
典夫が素っ気なく返事を返した。
どうやら兄の大学の女子学生のようだ。
典夫は冷たい美貌のまま、笑顔も見せずに三人の女の人と対応しているが、女の人たちのほうはそれこそ全身から『典夫君ラブ光線』を発射している。
……お兄ちゃんはすごくかっこいいから、女の人にもてるのはしかたないけど、やっぱりやだな……。
キャーキャーと兄を取り巻く女の人たちをおもしろくない気持ちで見ていると、彼女たちの一人が知矢のほうを見た。
「典夫くん、いっしょにいるの友達? うちの大学の学生じゃないよね?」
兄はチラッと知矢のほうを見てから、女の人たちに向かい素っ気なく答えた。
「…………弟だよ」
「えー!?」
女の人たちはそろって歓声をあげる。
「典夫くんの弟さんー? やだー、かわいい!!」
女の人のこういうノリは、知矢は苦手だ。一歩後ずさって、それでも一応、「こんにちは……」と挨拶をし、最低限の礼儀だけは示した。
「こんにちはー! ほんっとかわいい!! 中学生?」
一人の女の人に言われて、ムッとする。
「高校生です……」
「あら。ごめんねー。あんまりかわいいから」
「でも典夫くんとはあんまり似てないのねー」
別の女の人の言葉に今度はグサッと傷つく知矢。
そりゃクールビューティーなお兄ちゃんと僕は全然似てないよ……。
突然の女の人たちの乱入に、大好きなお兄ちゃんとのデート中だというのに、知矢は少々いじけモードに入ってしまう。
「オレたち、急ぐから」
典夫の不機嫌そうな声が割って入る。
「あ、ごめんね、典夫くん」
三人の女の人たちはすごく名残り惜しそうに、典夫のことを見つめている。
そんな彼女たちを半ば無視して、兄は知矢を促し歩き出した。
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