2 / 8

第2話

 知矢がときめきとちょっぴりの不安を抱えながら、典夫の隣で歩いていると、後ろから声がかけられた。 「典夫くん!?」 「え?」  名前を呼ばれた兄が振り返り、それにつられて知矢も振り向く。  声をかけてきたのは三人の女の人。  綺麗にメイクをし、お洒落に着飾っている。 「……ああ」  典夫が素っ気なく返事を返した。  どうやら兄の大学の女子学生のようだ。  典夫は冷たい美貌のまま、笑顔も見せずに三人の女の人と対応しているが、女の人たちのほうはそれこそ全身から『典夫君ラブ光線』を発射している。  ……お兄ちゃんはすごくかっこいいから、女の人にもてるのはしかたないけど、やっぱりやだな……。  キャーキャーと兄を取り巻く女の人たちをおもしろくない気持ちで見ていると、彼女たちの一人が知矢のほうを見た。 「典夫くん、いっしょにいるの友達? うちの大学の学生じゃないよね?」  兄はチラッと知矢のほうを見てから、女の人たちに向かい素っ気なく答えた。 「…………弟だよ」 「えー!?」  女の人たちはそろって歓声をあげる。 「典夫くんの弟さんー? やだー、かわいい!!」  女の人のこういうノリは、知矢は苦手だ。一歩後ずさって、それでも一応、「こんにちは……」と挨拶をし、最低限の礼儀だけは示した。 「こんにちはー! ほんっとかわいい!! 中学生?」  一人の女の人に言われて、ムッとする。 「高校生です……」 「あら。ごめんねー。あんまりかわいいから」 「でも典夫くんとはあんまり似てないのねー」  別の女の人の言葉に今度はグサッと傷つく知矢。  そりゃクールビューティーなお兄ちゃんと僕は全然似てないよ……。  突然の女の人たちの乱入に、大好きなお兄ちゃんとのデート中だというのに、知矢は少々いじけモードに入ってしまう。 「オレたち、急ぐから」  典夫の不機嫌そうな声が割って入る。 「あ、ごめんね、典夫くん」  三人の女の人たちはすごく名残り惜しそうに、典夫のことを見つめている。  そんな彼女たちを半ば無視して、兄は知矢を促し歩き出した。

ともだちにシェアしよう!