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第4話
「いらっしゃーい!コウちゃん」
「ママ。いつもの頂戴」
「おまかせー」
ママは手早くウイスキーの水割りを作ってくれる。ママと呼ばれているが見た目は男性だ。そして客も見渡す限り男性ばかり。そうここはそういう場所。つまりゲイが集まるゲイバーなのだ。
「久しぶりじゃなぁーい」
コトリと目に前にウイスキーを置いてくれる。
「最近、忙しくてね」
「スイートな彼が出来たのかと思ったわ」
「ママ知ってるでしょ。絶賛片思い中だって」
「あのノンケでしょ?いー加減に諦めなさいって。付き合えてもノンケは結局女に戻るわよ?」
「分かってるんだけど…ねぇ」
報われない片思いを痛感する度にこの店に来て、その吐き出しようもない思いをぶつける。
時にママに愚痴って。そして時に…
「可愛いね。えっ…とコウちゃん?」
隣に座るガタイのいい男。香坂の左手を許可もなく握る。香坂も決してそれを振り払ったりしない。
「こんばんは」
「めっちゃ好みだわ。どう?今夜」
「いいよ」
ウイスキーをぐっと一口で飲み干し、初めて会った男性と手を繋ぎ店を出た。
こうして時に、一夜の相手にいつか爆発しそうな体の疼きを発散するのだ。
近くにあった男同士で入れるホテルを目指す。愛用のホテルだ。シャワーを浴びて、お互いの裸で抱き合った。
「コウちゃん。えーっと俺は…」
「あ…大丈夫。先輩って呼んでいい?」
「ん?片思いの相手?」
「そう」
「ははは代理ってわけね。いいよ」
キスして、愛撫されて、解される。
「ねぇ…後ろからして」
「バックが好きなの?」
「うん…好き」
嘘だ。後ろからなら先輩としている風に想像できるから。
「へぇ…エッチだね」
「もっと…」
「もっと?」
「もっと喋って」
「言葉攻め好き?」
「好きぃ…」
嘘。この人についてきたのは先輩の声に少し似ていたから。
「あっ…あっ…」
「コウちゃん…可愛い」
「あ…先輩!先輩…」
「好き?」
「好き。大好き…!!」
今日も偽物の先輩に抱かれて虚しく絶頂を迎えるのだ。
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