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第9話
ぼそりといった正木の言葉が全てを物語っていた。どこか期待していたものがガラガラと崩れ去り、涙ももう出ない。
「すみません…」
そう言って、正木にものから逃げようとするも正木の腕が、香坂の体を抱き締めて、それを許さない。
「離してください!!もう…もう…許して」
こんな惨めで虚無感を香坂は初めて知った。
無理矢理に正木から逃れて、慌てて服を整える。手が震えて上手くいかないけれど、この場所からとにかく出ていきたい一心で出口を目指した。
「ちょっ…待っ…!」
正木の腕は香坂の腕を捉えて強く強く握った。香坂が何度も外そうとしても決して離れない。
「香坂…ごめん。話をさせて…どっか行かないで」
「これ以上何を!?これ以上…これ以上もう傷つきたくない…」
「そう…だな。ごめん…やっちゃいけない事をした…」
「…」
「ごめん。座って。お願い」
必死な目でじっと見つめる正木の目に香坂はぐらりと心が動いてしまい、力なくソファーに腰掛けた。
きっと結局自分はこの人に弱いのだ。
香坂が座ると同時に正木は腕を解いて、己の服も整えた。
ソファーで下を向いて項垂れている香坂に正木はしゃがんで下から顔を覗いた。
「香坂。お前の好きな人って…俺?」
確認するように聞く正木に香坂はこくんと頷く。
「そっか…」
はぁーと一息、ついてから、正木は香坂の手を握った。
光のない瞳をしている香坂を見つめて、すうと息を吸う。
正木はやっとここにきて気づいた自分の気持ちを伝えないとと思ったのだ。
なぜこんなに香坂に執着してしまったのか。
知らない男が自分より香坂の事を知っていて、それになぜこんなに心乱されたのか。
香坂の気持ちが誰に向いているのかをなぜこんなに気になったのか。
いとも簡単な事だ。たった一言だ。
それは…
「俺も、香坂の事好きみたい」
「…は?」
弾かれるように正木を見つめると切なそうな優しい目をしていた。
「嫉妬に狂って、こんなにめちゃくちゃにしてごめん」
「えっ…なん…」
言い終わらないうちに唇は正木に奪われた。先程とは比べ物にならないくらいの優しいキス。もう全てを忘れて、何も考えず、身を任せたい。
「あっ…」
「正面から見ると…更に可愛いんだな」
「え…っ!?」
「他の奴も見たかと思ったら…めっちゃ腹立つんだよ」
「…何を言って」
香坂は急な事で頭の理解が全くついていかないという顔をしている。何がどうなっている?と顔に書いているようだ。
正木は再び唇を合わす。信じてという気持ちを込めて。何度も何度も何度も。
「香坂が俺以外を特別だって思ってたらすっげぇ嫌って気づいた」
「なっ…」
「俺以上にお前のこと知ってる奴がいるとか…心がざわつく」
香坂はまだ理解が追いついていないのかぼーっと正木を見つめている。
正木はそんな香坂の唇に口付けをして、更に首筋や、肩にちゅっと音を立てて唇を落としていく。それはひとつひとつ印を上書きするように優しく。
「んっ…」
そのひとつひとつが身体中に刻まれていくようだ。
「お前に恋してたんだな…今、気づいた」
「…っ!?」
香坂はまだ戸惑っていると、正木の唇は再び反応し始めた香坂のものに触れた。
ベルトを解かれ、ジッパーを下げられると下着越しでもしっかり反応しているのが分かる。正木指が優しく撫でる。
「んっ…!」
体を反らして感じてしまう。香坂そんな反応を正木は嬉しそうに見ていた。
下着をずらされて直接、正木の口に含まれたそれはビクビクと波打つように身体中の血がそこに向かっているようだ。
「やっ…ダメ…」
香坂のものを舐める正木の姿を見ながら、思わず声が出た。こんな光景想像もしていなかった。もう頭がパンクしそうだ。
その言葉を聞くように正木はぴたりと止めた。
「え…?」
「それは…本当に駄目なダメ?それとももっと続きをしてのダメ?」
真剣な目で尋ねてくる。わざと聞いているのではなく、真剣に確認しているのだろう。もう傷つけないように。
香坂の目は一瞬泳いで、恥ずかしすぎて目を閉じた。そして蚊がなくような声で言ったのだ。
「もっと続きをしての…ダメです」
「了解です」
正木は嬉しそうに笑って、香坂のものを舐め始めた。先輩が自分のものを舐めてる…。感覚の気持ちよさよりも、目の前にあるその光景が嬉しくて言葉が出ない。
「んっ…」
絶頂を迎えそうな時に、正木の指は香坂の蕾を探った。その感覚が先程の痛みをフラッシュバックさせて正木の身をビクリと竦ませた。
「あ…ごめん。無理そうなら止める」
香坂は首を横に振った。痛い、おそらくどこか切れたようだ。しかし、それでも正木のものが欲しいと思った。このまま、怖かっただけで記憶を終わらしたくなかった。
「入れてください。先輩の」
「いいのか?」
心配そうに聞いてくる正木に笑顔で頷いた。
「先輩が欲しいです」
正木は噛み付くようにキスをしてその口を蕾に向けた。
「えっ!?せ…先輩!?」
正木が香坂の蕾を舐める。まるで傷を癒すように丁寧に。
「え…嘘…待って待って先輩」
「もう止めらんねーよ」
唾液と指で解しながら、ワセリンも使って香坂の孔が広げられた。
こんな明るくい場所、しかソファーでされて恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
正木が服を全て脱いだ。その姿を目の当たりにしてしまって更に体温は上がった。
「今更…照れてんの?」
たいした体じゃねーよと笑う姿に直視出来ないほど照れてしまった。
「じゃぁ…入れるぞ?痛かったら言えよ?」
正木が覆いかぶさって、香坂の蕾に己のそれを当てた、先程の恐怖が蘇ったが、目に前にいる大好きな人を見つめたらそんな事も吹っ飛んだ。
早く繋がりたい。それしか頭の中には無くなった。
「あっ…」
入ってくる熱いもの。深呼吸を意識してもどんどん息が上がる。正木の首に抱きついて背中に爪を立てた。
痛い…痛い。しかし、それを言ったら正木は動きを止めるだろう。背中に食い込むほど指に力が入っていたが、それを正木が咎めることも無かった。
「大丈夫か?」
「はい…」
ゆっくりと侵入してくる正木のものをしっかり咥え込んでいると分かる。目に前には汗をかいている正木がいて、思わず笑ってしまった。
「なに…?」
「先輩だと思って」
「え?どういう事?」
「いいんです」
正木の体をぎゅっと抱きしめた。
「…バックの方が好きなんだっけ?」
苦々しそうに耳元で尋ねてくる正木に香坂は首を振った。
「それは…後ろからなら顔が見えなくて先輩だと錯覚しやすいから…」
「え…?言葉攻めは?」
「それは…あの人の声が先輩にちょっと似てたから…」
恥ずかしくて顔が見れずに正木の肩口に顔を埋めた。香坂の中にいる正木が少し大きくなったのを感じる。
「あっ…!?」
「ごめん…可愛すぎんだろ」
正木は耐えきれない様子で動き始めた。ゆっくり上下運動をするのに合わせるように香坂も腰を動かす。
「…だから、先輩なら何でもいいです。でも…顔が見たいかな?やっぱり」
香坂がへへへ笑うと正木は余裕が無さそうな顔で香坂にキスをした。
「あんま煽んな…。これ以上ヤバい」
「はい」
香坂は愛しい先輩に抱きついて、動きに合わせて気持ちいい場所を探る。体が正木のものを覚えようと締め付けているようだ。
「あっ…先輩…」
「っ…!香坂…俺、限界みたい」
はぁはぁと余裕がなさそうな顔で呟く様子に香坂は幸せそうな顔で「はい」と返した。
何度か激しく打ち付けた後で、二人一緒に絶頂を迎えた。
はぁ…はぁ…と二人して力尽きて、二人して狭いソファーの上から動けなくなった。
身体中を包む余韻の中、そっと正木を見ると、香坂の顔とは違って、絵に描いたような絶望を表したような顔をしている。
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