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嬉しハズカし初めてのデート!②

***  吉川と一緒に向かった先の小学校は、僕の通っていた小学校と同じくらいの大きさだった。 「サッカー少年団って言っても、サッカー好きな小学生が何となく集まった感じなんだ」  小学校に向かう道すがら、丁寧に説明してくれた吉川の言葉にそのときはへぇって相槌を打ったんだけど、目の前で行われている練習風景を実際に見て、納得せざるおえなかった。  グラウンドではちょうどパスの練習をしているらしく、1対1で向かい合って相手にボールを蹴っていた。  あらぬ方向に暴投をしているコが数人、目の前の隣のコにボールをパスしてるコが数人いる状態を目の当たりにして、ノリトは驚きを隠せなかった。 「吉川、これは?」 「普段指導をしてる6年生のお父さんはサッカー未経験者で、本を読んだりネットで調べたりして教えてる状態でさ。全員が発展途上中なんだ」 (――なるほど。面倒見のいい吉川が、手を貸さずにはいられないワケだよ) 「あ、吉川さんだ!」 「ええっ!? 戻って来てくれたの?」 「吉川のお兄ちゃんっ!」  吉川の存在に気がついた小学生たちが、こぞってこっちにやって来た。その迫力のすごいこと、この上ない。 「吉川ってば、モテモテだね」 「俺としては、ノリにだけモテたらいいのにな」  グラウンドの真ん中から走ってくる小学生に目がけて、吉川の背中を押してやった。 「僕はそこに設置されてる涼しそうなテントの下にいるから、思いっきり相手をしてあげなよ」 「サンキューな。行ってくる!」  真夏の太陽の光を受けた吉川の茶色い髪が光り輝きながらふわりとなびく姿を、愛おしく思いながら眺める。  ふたりきりのデートはできないけれど、こうやって楽しそうにサッカーをする吉川を見られるのは、僕にとって嬉しい出来事だった。 「お前たち、そこにいるメガネの兄ちゃんに感謝しろよ! 戻って来られたのは、アイツのおかげなんだからな。とりあえず鳥かごで練習をやってみるぞ」  吉川は自分を取り囲んだ小学生たちの数人の頭をぐちゃぐちゃっと撫でてから、大きな声を張り上げて、こっちを見てくれた。それに倣って小学生たちは僕を見て、しっかり頭を下げる。 「ありがとうございますっ!」  それはそれは大きな声で、お礼を言ってくれた。  どういたしましてと言葉を返したいものの、人見知りの激しい僕にはそんなことができるハズもなく――メガネをズリ下げながら、ぺこぺこと意味なく頭を下げるしかなかった。きっと顔が赤くなってるだろうな。 「今日のメンバーは確か16人いたよな。4人一組になって鳥かごをするから、まずは学年ごとに整列してみてくれ」  集まった小学生たちを見やり、てきぱきと指示する吉川。学校じゃあ先輩がいるから、練習中もどこか顔色を窺っているところがあるように見えるけど、今は伸び伸びとしていて、外野で見ている僕が思わず中に入りたくなってしまうような雰囲気を、自ら作り出していた。 「選手としてだけじゃなく、監督としての才能もあるんだろうな。慕われすぎて、引っ張りだこになっているし」  テントの下に敷いてあるゴザの上に腰を下ろしながらくすくす笑っていると、ノリー! という大きな声を張り上げてくれる。 「どうしたんだよ、吉川?」  負けじと声を張り上げて、返事をしてやった。引っ張りだこ状態になっているというのにそんなの無視して、ニッコリ笑いながら右手をぶんぶん大きく振りまくる。 「可笑しな顔して、笑ってんなよなっ!」  なぁんて言ってから背中を向けてグラウンドの中央に向かって、走り去ってしまった。 「まったく……」  吉川なりの気遣い――僕が何をしているのか、ちゃっかり追いかけてくれる。オマケに笑わせるなんて、気が利きすぎだよ。  ズリ下がったメガネを元の位置に戻して、ぎゅっと膝を抱えた。そんな優しい恋人のことを見失わないように、しっかり観察しないとなって思いながら。

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