4 / 10

第4話

「ユイ」 「ん、何?」 俺の頬を撫でる菊池の手に甘えるように、自分から頬を擦り寄せた。 「俺の物になれ。そうすればお前も、お前の子供も、養ってやれるんだ」 「…でも、菊池の家は極道だろ?俺の子供が危ない目に遭うのは、嫌だなぁ。」 「なら…隠し子として、別のところに住まわせる。それでも不自由はさせない。」 優しい目に、声。それに縋り付きたい。このまま離さないでって、声に出して言いたい。 菊池についていけば今よりはずっと、幸せになれるんじゃないかって思う。 俺だって幸せになってもいいんじゃないか…? 「……菊池、聞いて」 ───でも、駄目なんだ。 「俺ね、晴麗の父親になりたいんだ。」 「…もう、なってるだろ。」 「違う、そうじゃなくて…。父親なら、子供をわざわざ危険な場所に連れて行ったりしないだろ…?」 そう言うと菊池は顔を歪めて、それでも俺から手を離さなかった。 「本当に、俺達を養うって言うなら、こういう事無しで、普通に俺達に会いに来てよ。」 「…でも、俺は忙しい。空けられる時間は昼か夜か、どちらかだ。昼を空けるなら夜は会えない。つまり…お前は生活費を稼げないぞ。会いに行って金をやるほど、俺は優しくねえからな」 確かに、それは困るなあ。 菊池と会うのは大体月に1度だった。その度にもらうお金で、今までなんとか繋いできたから。 でも、純粋に1度でいいから晴麗に会ってみてほしい。俺の息子はこんなに可愛いんだぞって、誰かに少しくらい自慢したい。 「金は…しばらくは今まで貯めたの、崩したら…なんとか…」 「それはこれから子供にかかる分に回すんだろ?」 逃げ道がなくなって、どうしようかと悩んでいると、突然優しくキスをされた。それがあまりにも気持ちよくて、もっとと、強請りそうになる。 「1度、お前の子供に会いに行く」 「う、ん」 晴麗に会った後はこのまま、菊池が俺を切ることなくいてくれたら、俺は稼ぎ続けることができるんだけどなって、そんなことを思った。

ともだちにシェアしよう!