6 / 10

第6話

*** 「母さーん!!見て見て!100点とったあ!!」 「すごーい!晴麗は頭がいいなぁ。」 「父さんに教えてもらったんだ!あ、洗濯物するの?俺も手伝う!」 「ありがとう」 あの時、違う選択をしていたらきっと、晴麗はこんなに無邪気で優しい子には育っていなかったと思う。 「母さん、これ、どうやって掛けるの?」 「それはこうやって…」 「わかった!」 昔出て行った嫁に似て、可愛らしい顔をしているけれど、"哉太"が言うには、目元は俺とそっくりらしい。 「───ただいま。」 「あ!父さんだ!!」 洗濯物を放り投げ、ベランダから部屋に戻って行った晴麗に笑みが漏れる。 「父さん聞いて!俺ね、100点とった!」 「すごいな。今日はお祝いするか?」 「いいのー!?」 「いいよ。」 部屋の中から聞こえてくる声で、心が優しくなるのがわかる。すごく穏やかな気持ち。 洗濯物を終えて、部屋に入ると待っていたのは愛しい2人。 血は繋がってないけれど、2人の仕草とか、笑い方とか、雰囲気が何処と無く似ている。 そんな2人が俺を見て笑うから、何かあったのかなって不思議に思う。 「晴麗の100点のお祝いに、晩飯はハンバーグがいいって」 「ハンバーグ?普段から作ってるけど。もっと豪華なの頼めばいいのに。」 「母さんの料理の中で1番好きなんだ!ハンバーグがいい!お願い!」 「わかったわかった。いいよ」 そう返事をすると、哉太が「よかったな」って晴麗の頭を撫でた。 材料、あったっけ…?とキッチンに行く俺を追いかけてきた哉太が、冷蔵庫を開けようとした俺の後ろから手を伸ばし、ドアをおさえた。 「わっ、え、どうしたの…?」 「ただいま」 「あ…おかえり。ごめん、洗濯物してて忘れてた…」 「いいよ。」 くるりと振り返って、哉太にキスをする。 甘くて優しいキス。これが大好きで、もっと欲しくなる。 そして最近は、このキスを与えられる度に思うことがある。 「……好きだ」 「どうした、今日はデレ期か?」 「…そう言えば俺、哉太と暮らすって決めた時も、"好き"って伝えてなかったなって。」 「…あの時は俺が好きとか、そんな感情どころじゃなかっただろ。お前は追い詰められてたし。それに俺もあの時はお前にちゃんと気持ちを伝えられてない。」 思い返すと笑えてくる。確かに、あの時は家にいる晴麗との2人だけの世界に閉じこもっていたから、些細な事で傷付いていたんだ。 「哉太がいたから、晴麗が歩き出した時も、何とか持ち堪えれた気がする。」 「目を離したら何処へでも行ってたからな…。あれには苦労した」 くすくす笑った哉太が、まるで大切な物に触れるみたいに柔らかく俺の頬を撫でた。 「でも、こうやって晴麗が優しい子に育ってよかった。」 「うん」 本当に道を間違えないでよかった。 「…俺を家族にしてくれてありがとう。」 「違うよ。それは俺の言葉。」 顔を上げて、哉太をそっと抱き締める。それをいつからか見ていた晴麗が駆け寄ってきた。 「あー!俺も!母さんと父さんだけずるい!俺もギュッてして!」 「ああ」 哉太が晴麗を抱っこして、3人で抱きしめ合う。 「俺と晴麗を、哉太の家族にしてくれてありがとう。」 そうして、倖せになれた。 〜fin〜

ともだちにシェアしよう!