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第3話

「よう、ひなた……お前、元気にしてたか?」 「―――お、叔父さん?」 憂鬱な気分で玄関の扉を開けた先――。 そこには幾年も会っていない久々に会う日和叔父さんが立っていた。何故、今更この呪われた家に来たというのだろう―――しかも、連絡すらする事なく。 ふわり、と良い香りが――日和叔父さんの方から漂ってくる。おそらく、香水か何かの香りなのだろう。よくよく見れば、昔から自由奔放でだらしなく、神経質で潔癖症気味な父とは正反対の叔父さんにしては身だしなみが整っている。 いくら久々に会うとはいえ、日和叔父さんは、こんなにも身だしなみを整える人だっただろうか―――。 駄目だ、正直――叔父さんに関してほぼ何も覚えていない。 ただ、これだけは覚えている―――。 先ほどの夢でも見たが、叔父さんがギャン泣きする幼い頃の僕に――手作りのうさぎの縫いぐるみをくれたこと。日和叔父さんは、だらしなくて面倒くさがりな癖に人形作りや縫いぐるみを作るのは得意だった。 でも、今にしてようやく分かるのだが――それすらも僕の父からは気味が悪いと嫌われてしまっていたようだ。 「……どうした、ひなた?早く――中に入れてくれよ。お前の父さんにも……挨拶したいからな」 「えっ…………お、叔父さん……それは止めた方がいいよ!!僕が父さんに怒られちゃう――それに……日和叔父さんと父さんは――」 「…………ひなた、今――何時に見える?」 ――ずいっ 僕が父さんに会おうとする叔父さんを必死に制止しようとしていると急に彼は自分が着けている腕時計の文字盤を見せてきた。 チッ……チッ……チッ…… 同じリズムで規則的に音を刻む腕時計の文字盤を見てると、僕の意思とは関係なく勝手に口が開き―――、 「4時44分……4時44分……4時44分……」 と、僕が叔父さんの問いに答え終えている最中――ぐる、ぐると腕時計の秒針が逆さまに物凄い速さで周り、同様に僕の脳の中もぐる、ぐると目まぐるしく周り始めるような錯覚の強烈な目眩に襲われてしまう。 (おかしい……おかしい……変だ……4時44分なんて……とっくに過ぎてる筈なのに―――っ――) 「……おっと、ひなた――お前……まだ軽いな~……さて、お邪魔するよ」 「……4時……44分……4時……44分―――」 まだ脳の中が目まぐるしく周っているような目眩の後遺症でボーッとしている僕の事など、お構い無しに無抵抗な体を抱き上げられ――そのまま、お姫様抱っこ状態で抱えられてしまう。 そうして、久々に会った自由奔放な叔父さんは――僕をお姫様抱っこしたまま無遠慮に家の中へ入っていきギシ、ギシと音が軋む廊下を歩きながら父の部屋へと歩いて行くのだった。 『………………』 あんなに僕に悪態をついてきた祖母の霊も――気味が悪い顔面穴だらけの愉快げに鏡の中で微笑む笑子ちゃんも――久々に家の中に入る日和叔父さんには何もしてこない。それは彼女達だけじゃなく周りの浮遊霊や地縛霊達も、そうなのだ。 ―――ふいに、穏やかに笑みを浮かべながら我を失っていてボーッとしている僕の顔を一度覗き込んでからピタリと足を止めて、彼は父の部屋の襖をわざとゆっくりとした手つきで開けようとするのだった。

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