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第8話

「……日向、こっちに来い―――早く!!」 と、急に後から入ってきた叔父さんに言われ――慌てふためいている僕の体を背後から、もう一人の日和叔父さんから逝き人形と呼ばれた着物を着た女の子からドンッと後から入ってきた叔父の方へと突き飛ばされる。 そのせいで、後から入ってきた叔父さんの胸元へと自然に飛び込んでしまう状態となり、そのまま半ば強引に叔父さんから顎をとられて――あろう事か血の繋がった叔父と甥の関係だというのにキスされてしまう。 ―――にしても、おかしい。 今の状態も充分におかしいのだが、先に部屋に入ってきて僕と父さんに好き勝手やっていた叔父さんの姿が――いつの間にか消えていたのだ。 「んんっ……んっ……」 ―――この異様ともいえる状態をすぐ側でぐったりと横たわっている父さんが見たら……どう思うのだろう? そんな事が気になり――薄目を開けて、父の様子を確認すると目を固く閉じたまま小声で何かをボソボソと呟いている。 【……お前は……誰だ―――お前は……誰だ―――】 そう言っているように聞こえたが、自信はない。 やっと―――叔父さんの唇が僕の唇から離れたかと思った途端に口の中に我慢出来ない程の強烈なしょっぱさが広がる。これは、塩だ―――。 しかも、普通の塩よりも何倍も濃く感じる。 「……よし、これで大丈夫だ。言霊虫は――お前に危害を加えられない。だから、日向―――お前に頼みがある。中庭に大樹があるだろう――そこに花が咲いている筈だ……その花を守れ!!そうすれば……俺の偽物――あの忌まわしい重魂者は消える」 重魂者とは―――おそらく、あの僕と父さんに好き勝手していた叔父さんの事なのだろう。 僕は膝が震えるくらいに怖かったし、今の異様な状況についていききれないものの――久々に会った大好きな日和叔父さんの願いを叶えるために力強く頷いてから父の部屋から出て行き、中庭に向かって走っていくのだった。

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