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第9話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 中庭にそびえ立つ大樹―――その木下に本物の日和叔父さんが【重魂者】と呼んでた偽の叔父さんが――立っていた。 「……ひなた、俺はね――この桜の木が好きでもあり嫌いな存在なんだよ……何故か分かる?この木の下は俺の唯一の癒しの場所だった。でも、同時に俺が劣等感を抱く――忌まわしい場所でもあったのさ。嫌な事は色々あったけれど一番嫌だったのは――お前の父さんの日陰兄さんを奪ったあの女が……俺に優しい振りして無理に微笑みかけてくる事―――かな」 「ちっ……違う……違う……僕のお母さんは叔父さんを心配してた――大好きだった――叔父さんを家族の一員だと認めてたっ……」 あらぬる力を込めて――全力でその重魂者と呼ばれた偽の叔父の言葉を否定する。しかし、僕が必死で否定した所で彼は唇を歪めて口角をあげ――意地悪く微笑むだけだ。 ―――ぐいっ 「でも――これで、もうおしまいだ。あの美桜とかいう女のせいで受ける苦しみとも――忌まわしいヤドリギや逝き人形とも……血の繋がっただけの単なる甥でしかないお前とも――この手をひねれば――おしまいだっ!!」 大樹の幹の真ん中当たりに大きめの、ひびができており――その隙間から小さな桜の花が数輪咲いているのに気付いた僕は真っ青になって偽物の叔父の方へと急いで駆け寄る。 ―――その大樹のひびの隙間からぴょこっと飛び出ている季節外れの数輪しか咲いていない桜の花を……重魂者は、ひね折ろうとしているのだ。 「お、お前は……誰だ―――お前は……誰だ――お前は……誰だ!!?」 ふと、先ほど倒れている父さんが小声で呟いていた言葉を思い出した僕は――半ば無意識のうちに同じように叫んだ。 すると、重魂者が桜の花を折ろうとしている動きが、そのままの状態でピタリと止まる。この場所だけ、時が止まったように思え――何とか数輪の桜の花がひね折られるのを守れた僕は――力なくその場にへたっと座り込んでしまう。 ――ザッ……ザッ…… 「―――流石は俺の日向だ……無事にお前の母さんが残した桜の花を……守れたな」 と、ふいに――背後から安堵したような表情を浮かべる本物の日和叔父さんが現れて僕は涙ぐみながらも、ゆっくりと立ち上がると――そのまま叔父さんへと抱きついてしまうのだった。

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