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第19話
以前、こうするとーー明晰夢から醒めて現実世界に戻れる事が出来ると、僕の近所の寺生まれの藤司(とうじ)さんが教えてくれた。
藤司さんは僕が昔から悩みを相談できる唯一の人で――日和叔父さんが家から出て行ってしまってからは、僕の心の拠り所なのだ。僕が霊感があって変なモノが見えると泣きながら相談しても、穏やかに笑いかけてくれて嫌な顔一つしない男の人で、お寺生まれの人だからかそういったモノに対しての対処法を教えてくれていたのだ。
―――しかし、
僕は藤司さんに対して恋愛対象以外の好意を抱いているのに、父さんは「あんな奴は信用するな」と頭ごなしに彼を否定してきて、僕が何で彼を快く思わないのかと尋ねても父さんは頑として答えてはくれない。それは、一体何故なのか――未だに分からないのだ。
(あれ……せっかく藤司さんに教えてもらったのに――まだ……夢から醒めてない――彼が教えてくれた方法が間違ってたのかな……)
僕がぎゅうっと目を閉じて、再び目を開けると――目の前には未だに僕にキスをしようとしてくれている日和叔父さんの姿があった。シャオリンは相変わらず小さい日本人形の姿で湯船に浮いており、カサネは蜃気楼のように姿が見えないままだ。
ということは、やはり未だに僕の願望――日和叔父さんから叔父と甥の関係だけではなく恋人として愛されたいという願望の夢の中にさ迷っているということなのだ。
これは、僕の都合のよい夢の中――。
父さんをずっと愛していた日和叔父さんが――父さんの息子である僕をそういう目で見てくれる訳なんてない―――。
現実を理解しかけた時、ふいに鏡に少しずつヒビが入っている事に気付いた僕は――僕が都合よく作りあげた偽物の叔父さんの体を突き飛ばして鏡の前に向き合うのだった。
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