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第25話

「やあ、おはよう……日向くん。今朝も暑いね――倒れないように気を付けて学校に行くんだよ?」 「藤司さん、おはようございます……まだ、バスは来てませんか?」 「ああ……大丈夫だよ―――今朝は、まだ来ていないから。きっと何かトラブルでもあったんだろうね――でも、急いだ方がいい」 いつも通り、藤司さんのいるお寺の前を通って、そこから少し離れた場所にあるバス亭を目指そうと歩みを進めていた時―――ふいに藤司さんの隣に見慣れない少年がいる事に気付いた。年は、おそらく僕と同じくらいだろう。そして、白い着物を着ていて、手に持った箒で地面に落ちた葉っぱを熱心に掃いている。 その少年は――僕に気付くと、にこりともせずに無表情でお辞儀してきたため、同じようにお辞儀を返した。 「――雪司、もう少しにこやかにしたらどうかな?まあ、それはともかく……日向くん、そろそろバスが来る時間じゃない?」 「そ、そうだった……じ、じゃあ……また……」 と、急いで彼らに言い残し――僕は慌ててバス亭へと向かって走るのだった。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ (よ、よかった……何とか間に合った―――) 急いでバス亭まで走ってきたため、呼吸困難になってしまうのではないかという程にハアハアいいながらも――心の中で安堵しながら、とりあえず座席に腰を下ろした。 いつも、この時間は――乗っている人が少ない。しかし、今日に限っては座席がほぼ埋まってしまう程に人がいる。しかも、何故か――ほとんどの人が俯いている。 どうやら、眠っている人が多いようだ――きっと早朝だからなのだろう。 キキーッ…… と、そんな事を思っている間もなく―――運転手が急ブレーキをかけた。しかし、これもいつもの事だ。間もなく、村人達から《どんおり坂》と呼ばれている急勾配の下り坂に差しかかる。この運転手は――いつも、この《どんおり坂》に差しかかる前に急ブレーキをかけるのだ。 ―――だが、 「え~、次は……文月前~……文月前~」 (え……ち、違う……次は――安山前のはず――文月前なんていうバス亭―――聞いたことも見たこともない……) その聞き覚えのないバス亭の名を、いつも通りの運転手の口から聞くと――先ほどまでは、暑さで息を切らしていたというのに――今度はあまりの不安から寒気を覚えた僕はガタガタと小刻みに体を震わせてしまうのだった。

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