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第26話
いや、僕の不安な心からくる寒さだけではない。
――ザザ……ザァァァ~……
――ピチョンッ……ピチョッ……
不安と寒さで座席に座ったまま満足な身動きすら出来ず、体を小刻みに震わせている僕の耳に――唐突に外から水音が聞こえてくる。
今は真夏で、いくら早朝とはいえ屋内から外に出ると、ぐっしょりと全身が汗まみれになってしまうくらいの暑さだというのに――。
じわり、じわりと寒さに包まれていくバス内に漂う――雨の日特有の独特な香り。普通ならば、梅雨の6月によく嗅ぐ香りだ。僕は、この雨の日に嗅ぐ香りが大好きなので、すぐに分かったのだが――今は、とても異様に感じてしまう。
ちらり、と目線だけを窓の方へと向けてみる。
(な、何で……雨音が―――それに……走っているバスの窓に雨粒が勢いよく叩きつけてる……もしかして、これも―――僕の夢の中なのか……)
とにかく、この異様な状況から早く脱しないと――とてつもなく危うい事になると察した僕は以前に試した《明晰夢から目覚める方法》を試してみる。
―――しかし、この間とは違って状況は何ら変わらない。
(……そ、そんな……これは僕の夢じゃない……じゃあ、どうすれば―――)
と、そこで――僕がどうしようもない不安なかられ、思わず周りの状況の確認をしようと辺りを見渡した時――、
「……る……い…………さま……て……い……さま」
「……てる…………さま……る……い……さま」
僕がバスに乗車していた時には既に俯いていた状態だった周りにいる乗客達が――全員、虚ろな瞳でボソボソと謎の言葉を繰り返し呟きつつ、僕の慌てふためき身動きすら出来ない様子を一心不乱に見つめてくるのだった。
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