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第27話

―――正気を失っていしまっている乗客達の彼らは何と言っているのか。 そんな事を考える事だけに意識を集中させてしまっていた僕の目に――こともあろうか、僕のクラスメイトであり、親友でもある夢月(むつき)の正気を失っている姿が入ってきた。彼は、とても本好きな少年で――そういう所で気が合って自然と親友になっていた。 ――何故、今までその事を忘れてしまっていたのだろうか。 夢月は――僕の幼なじみで、小さな頃からずっと遊んだり、学校に通ったりしていた。だから、このバスに乗るのも――当然の、いつも通りの事な筈なのだ。ただ、家が少し離れているため夢月は手前のバス亭から乗る。とにかく、夢月は――いつも通りこのバスに何の躊躇もなく乗り、そしてこの得たいの知れない【怪異なるモノ】に不運にも巻き込まれてしまったのだ。 いや、不運なのは――巻き込まれたのは夢月だけじゃない。単なる乗客でしかない彼らも――運転手さんも――僕の存在があるせいで巻き込まれてしまったのだ。 (嫌だ―――嫌だ、嫌だ……こんな疫病神の僕なんて……生きていても……仕方ない……意味がない……この世から消えるしか……) ――ぶらんっ 僕の目に――バスの釣り革が、首吊り縄に徐々に変化していく様が入ってくる。 (これなら――僕の首も……ちょうどこの輪っかに嵌まる……そうすれば、そうすれば……) 親友である夢月が【怪異なるモノ】に襲われて巻き込まれた事実を受け入れざらなくなってしまった途端に――僕の心は何者かに操られているかのように、唐突に途徹もない程の絶望感に支配されてしまう。 ――ドサッ しかし、夢月が持っていた本が音を立てて床に落ちたのに気付くと、首吊り縄に変わった吊り革に手をかけようとしている僕の手がピタリと止まるのだった。

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