28 / 276

第28話

―――【影法師】 著者 木ノ本 日頼 。 床に落ちた本の表紙には、何か――黒いモノに追いかけられて必死で逃げている全身が白いキャラクターが描かれている。因みに、表紙に描かれている背景は――深い山奥が舞台らしく大きな山の出前にはトンネルも描いてある。 本の表紙の全身が白いキャラクターは――そのトンネルに向かって逃げていくように描いてある。 (ま、待って……トンネル、それに山奥らしき場所……それに全身が白いキャラクター……この表紙にはバス自体は描いていないけれど……もしかして、これ……) と、僕は本を握りしめたまま――本来であれば真夏の太陽がギラギラと照りつけている筈の狂ったように降り続ける雨粒が叩きつけているバスの窓の外の風景を見てみる。 ――小さな頃から見慣れている御身山。 ――御身山に行く途中、幾度も通ったトンネル。 日和叔父さんは、ひねくれたホラー作家だ。 日和叔父さんなら、全身が白いキャラクターが何に追いかけられているのかなんていう事は明確に表紙になんか描いたりはしない。そんなに分かりやすくネタばらしなんかする筈がない。まあ、ほとんどの作家はそうかもしれないが――日和叔父さんに限っては絶対にしないと断言できる。 つまり、この本の表紙に描かれている全身が白いキャラクターを追いかけているのは――今、僕や夢月達が乗っている、このバス自体なのではないのか―――。 だとしたら、何としても――トンネルを抜けるまでには何とかしないといけない。 このまま、トンネルを通り過ぎてしまったら、僕や夢月――それにこのバスに乗っている人達――それに顔見知りの運転手さんも、きっとこの世ならざる世界にずり、ずりと引き摺り込まれて二度と戻ってこれなくなる。 (時間が―――時間がない、どうする……どうする……考えて――考えろ――本、そして……紙……ほぼ、この本の表紙の通りに怪異が進んでいる……そうしたら……) と、内心で悶々と悩んでいる僕の目に一人のスーツ姿の男性が目に入ってきた。そして、胸元のポケットには半分出かかっている煙草の箱が見える。確か、グランドセブンとかいう父さん御用達の煙草の箱だ。 そして、それを見た途端に――ある事が閃いて僕はおそるおそる――そのスーツ姿の男の人の元まで駆け寄るのだった。情けない事に、足がガクガクと震えているのが分かる。 しかし、この異様で絶対絶命な状況に対して一縷の望みをかけるにはこうするしかないのだ。

ともだちにシェアしよう!