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第30話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ キーン、コーン……カーン、コーン キーン、コーン……カーン、コーン………… 僕と夢月は何とか学校の授業が始まる前に間に合い、互いに息を切らしながら教室へと滑り込む。授業前には間に合っていたが、クラスメイト達は既に《朝の読書の会》の体勢に入っている為、全員が机に向かっており各々好きに選んだ本を読んでいる。 《朝の読書の会》は、いつも授業前に行っていて、時間にすると大体10~15分くらいの間に自分で選んだ本を読んでから、その後に4~5人のグループのメンバー同士で各々で選んだ本の感想を言い合うというものだ。尚、その際は簡単なあらすじ等を交えながら言わないといけないため、自分の想いを口にするのが苦手な僕には――なかなか、大変な時間なのだ。 「あれ……何で、このページだけビリビリに破れてるんだろう……日向くん、何でか知らない?」 「えっ……知らないよ――それよりさ、夢月――あの子って……誰だっけ?」 そして、《朝の読書の会》に少しだけ間に合わず遅れてきた僕と夢月は皆から好奇と呆れの目を向けられて急いで自分達の席へと駆けていく。因みに、僕と夢月は隣同士の席なため《朝の読書会》では同じグループだ。 そして、ふいにある事に気付いて僕は思わず間抜けな声を出してしまいそうになるくらい驚いた。僕と夢月の席の右斜め前の席に、シャオリンそっくりの女の子がいるのだ。赤いカチューシャをつけた長い黒は勿論のこと、可愛らしい横顔まで――何からなにまでシャオリンに瓜二つだ。 「―――日向くんったら……どうかしちゃったの……彼は小鈴くん……前から一緒のグループじゃないか。」 「えっ……こ、小鈴……ああ、そうか……そうだった……ごめん、ごめん……僕、まだ寝ぼけてるみたいで~……」 キョトンとした顔を僕に向けながら答えてくれる夢月の言葉に、僕はまたしても驚いた。 (小鈴……くん?シャオリンは……男……なのか―――) そんな僕と夢月のやり取りを見て、シャオリン――もとい、今は小鈴くんがニコニコしながら僕に何かを渡してきた。それは、小さく折り畳まれた白い紙で中に何か書かれてある。 《だんなさんから、ひなたさまをまもるようにとたのまれました――がっこうでも、よろしくおねがいします》 その紙には、たどたどしい筆跡で――しかも全て平仮名でそう書かれている。 ―――ガラッ!! 「よ~し、それじゃあ……そろそろ授業を始めるぞ~……ああ、読書の時間がまだ終わってなかったな」 ――ガタンッ その声を聞いて、僕はまたしても――いや、シャオリンが此処にいる事以上に驚いてしまい思わず椅子から立ち上がってしまう。 「ど、どうしたの……日向くん!?」 「えっと……す、すいませんでした」 困惑しているような夢月の言葉を聞いて、僕は深々と頭を下げて周りのクラスメイト達へと謝ると、そのまま大人しく椅子へと腰かける。 ――先生が授業を始める為に教室に入ってくる。 それは、いい―――そこまではごく普通の事。 しかし、その先生は――あろう事か日和叔父さんの格好をしていて、日和叔父さんの声で話してきた。 やる気なさげにクラスに入ってきた先生――それは、カサネだった。

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