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第36話

【てるてる坊主、てる坊主……】 「…………っ……!?」 【あーした、天気にしておくれ~】 ――パチ、 ――パチ……パチ…… 何故か、【影法師という怪異なるモノ】は――拘束していた僕の体から急に離れると、そのまま口角をあげて醜く笑みを浮かべつつ《てるてる坊主》という童謡を口ずさみ始めた。しかも、【影法師という怪異なるモノ】は単に童謡を口ずさむだけでなく――手の甲と手の甲を叩き合わせる《逆拍手》をしているのだ。 すると、今まで学校の保健室にいた筈の周りの景色が徐々に、普通ならばありえない光景へと一転していく。 ―――朝、バスで通る御身山へと続く薄暗いトンネル。 ―――室内の筈なのに、しとしと降り続く雨。 ―――ベッドや机といった家具が一切存在せず、その代わりといわんばかりに辺りには、いつもの通学路に点在する案山子やバス亭の看板が突っ立っている。 【可愛い可愛い君を――凡庸なニンゲンらしく、ただ単に身も心も奪うというやり方じゃあ、つまらない。そこで、君には――この私の呪場にて追い詰められて……私のニンギョウになってもらうのが一番いい方法だと思う……そう思うだろう――木下日向くん?】 トンネルの中は薄暗く、天井にある幾つかの灯りのおかげて周りにバス亭の看板や案山子が突っ立っているのが、かろうじて分かるものの肝心の【影法師という怪異なるモノ】が何処にいるのかが――全く分からない。 声は聞こえてくるものの、トンネルの中で山びこのように響いていて明確にどこから聞こえてくるのかが分からない。それどころか、ここが学校の保健室から【影法師という怪異なるモノの呪場】と化した瞬間から――その姿や気配が全く感じられないのだ。 ピチョ―――ピチョンッ…… 姿や気配を消し去ってしまった【影法師という怪異なるモノ】を見つける為に、がむしゃらに辺りを歩き周りながら不安と恐怖に包まれていた時―――ふいに、上から冷たい水が僕の頭めがけて降ってきたため反射的に上を見上げる。 ―――恐怖に震えている僕の目に、トンネルの天井からぶら下がる何十体もの【てるてる坊主】が飛び込んでくるのだった。

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