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第37話
【私や他の乗客を乗せたバスはようやく長い長いトンネルの中に差し掛かる――。しかし、何かがおかしい……いや、おかしいというレベルではない。これは異様ともいえるべき事だ――トンネルの中には、そこらじゅうに数十体もの私の知り合い達を模したてるてる坊主が、ぶらり、ぶらりとぶら下がっている――。よくよく見てみれば、トンネルの中に突っ立っている案山子が私においで、おいでをしながら相変わらずバスの中には冷たい雨が降り続き、私の体を濡らしていく―――】
トンネルの天井から何十体もの【てるてる坊主】がぶらり、ぶらりとぶら下がっている異常な光景を目の当たりにして、僕はそんな【怪異なるモノ】のナレーションのように淡々と話してくる言葉を耳に入れる。
というよりも、僕の意思などお構い無しに強引に目にも耳にも異常な光景と声が入ってくるのだ。
――先程から、寒気がして堪らない。
バスの中に降り続ける勢いを増してきた雨粒が僕の体を容赦なく濡らしてくるせいだ。
(待って……さっき、あの怪異なるモノは――私の知り合いの――てるてる坊主と言った……もしかして、もしかして―――)
どくん、どくんと――早鐘のように心臓の音が鳴っているのが自分でも分かる。
―――ああ、やっぱり僕が思ってしまった通りだ。
トンネルの天井からだらり、だらりとぶら下がっている何十体もの【てるてる坊主】は――僕のクラスメイト達だ。
子供のお絵かきのように可愛らしく描かれた顔の下の胴体には――クラスメイト達の【名前】が、それぞれのモノに書かれている。
しかも、【てるてる坊主】だけじゃない――。
バス外に不気味な様子で突っていて、おいで、おいでをし続ける【案山子】は――学校にいる先生達だ。名前までは書かれていないみたいだけれど、その格好で、それがいつも見慣れている先生達を模したモノだと分かった。
【さあ――木下日向くん、どうする?このままではクラスメイト達や先生達にも危害を加えちゃうよ……君のせいで、君の誤った答えのせいで――賢い君なら、これから尋ねる問いかけに何て答えればいいのか――分かるよね?】
「…………っ……!!?」
【その身も魂さえも、私の物になると誓うかい……さあ、答えは――?】
その無慈悲な問いかけを聞いて、僕は何の関係もないクラスメイト達や先生達が【怪異なるモノ】から人質として脅しの道具にされている事に対して、深い絶望感を抱きつつも、心の中である決意をしながら――朝、父さんから貰って半ズボンのポケットに入っている御守りを取り出すと、恐怖と不安からくる震えてしまう手でギュッと握りしめるのだった。
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