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第39話

(ど、童謡―――そんな……童謡って言われたって……いくらでもあるのに……なんの歌を――) 『日向……ママがお歌を歌ってあげる――だから泣き止みなさい』 ふと、今は亡き母の優しい笑顔が僕の頭の中を支配し――ある歌のメロディが自然と浮かんできた。あれは、小学校二年の時に僕があるクラスメイトから意地悪された時の事だった。 しと、しとと雨の降る田舎道を一人でトボトボと泣きながら歩いていた時にママが傘を差しながら落ち込んでる僕に歌ってくれた歌―――。 【あめあめ、ふれふれ――かあさんが】 ――ぱち、ぱち…… 【じゃのめで、おむかえ――うれしいな】 ――ぱち、ぱち…… 【ぴっち、ぴち――ちゃぷ、ちゃぷ……らん、らん、らん】 【影法師という怪異なるモノ】の攻撃に対して恐怖を抱いたせいで目を固く瞑りながら怯みつつも、手のひらを合わせる普通の拍手をしながら思い出の中の大事な雨の童謡を歌い終えた僕は、おそるおそる目を開いた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ そこは―――僕が【怪異なるモノ】に襲われる前にいた元の保健室だった。しかも、布団をかけながらベッドに横たわっている。 ――コン、ココン…… ふいに、すっかり静かになった保健室の扉が外側からノックされて思わずビクッと体を震わせてしまった。 「……日向くん、大丈夫!?お腹が痛いのは治ったの?」 「な、何だ……夢月か――って……ん?」 ノックしてきて保健室に勢いよく入ってきた相手が親友である事に安堵したが、ある違和感を抱いて慌てて夢月をジッと見つめてしまう。 「夢月……僕が、お腹が痛いって……どういう事?」 「えっ……だって、日向くんってば――道徳の授業中にお腹が痛いっていって保健室に来たじゃん。僕も一緒に行くって言ったのに――でも、それがどうかした?」 【影法師という怪異なるモノ】が襲いかかってくる前に保健室へ来た理由が、些細な事とはいえ――変わっている。僕は【怪異なるモノ】である照井が前々から存在していたのか確かめるために頭が痛いと言って夢月と共に保健室へと向かった筈だ。 何でも心許せる親友である夢月は今まで僕に対して、下らない事でからかったり嘘をついたりなんてした事がないから、彼が言っているのは疑いようのない事実の筈なのに―――。 「……るい……」 「えっ――日向くん、今……何て言ったの?」 「照井先生は――照井先生は、何処に行ったの?」 保健室に来るまでの経緯が些細なものとはいえ、変わっている事に対して不安と恐怖を抱いた僕は声を震わせながら目の前に立っている夢月へと尋ねてみる。 「照井先生……って、誰―――それ?」

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