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第47話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「ねえ、ねえってば……日向くん、僕の話……ちゃんと聞いてた!?」 「ん……っと……ごめん、夢月―――全然聞いてなかった――もう一度、話してもらってもいいかな?」 親友である夢月と共に学校に着いてから下駄箱へと向かって歩いて行く僕に夢月が膨れ面をしながら話しかけてきた。昨夜の日和叔父さんとの風呂場でのやり取りについて、色々と思うところのあった僕はボーッとしていて心ここにあらず、だったのだ。 「もう……日向くんったら―――今度は、ちゃんと聞いてよ?あのね――夏休みの事なんだけどね……」 「……っ…………?」 下駄箱に目を向けないまま手を突っ込んで内履きを取ろうとしていた時、ふと何かがヒラヒラと舞うように床へと落ちる。そしてそのまま身を屈めて、それを取ろうとした僕だったけれど、それが何なのか分かった途端に――ぴたり、と手を止めてしまった。 ―――それは、一枚の写真だった。 しかも、単なる写真ではない。 僕以外の夢月を含むクラスメイト達から存在自体忘れ去られた《照井》という副担任を名乗っていた筈の男が苦し気な表情を浮かべながら、血だらけで地面へと倒れている――そんな異常な写真なのだ。 写真の中の男の瞳は――まるで魚の濁ったような目と似ている不気味なものであり、その男が既に生気を失っているのは、目に見えて明らかだ。 「……日向くん、どうかした?」 「う、ううん……それで、夏休みがどうしたって?」 「ああ、そうそう――あのね、夏休みに僕と日向くん、それに他の皆も誘って泊まりがけで海に行かない?因みに、お寺の藤司さん達も一緒に来てくれるって――だから、日向くんも一緒にどうかなって……日向くんさえよければだけど――どうかな?」 (良かった……夢月は下駄箱から落ちてきた写真には気付いていないみたいだ―――) 僕がホッと心の中で安堵していると、満面の笑みを浮かべながら少し遠慮がちに夢月が聞いてきたため――そんな彼に気疲れないように写真をソッとポケットの中にしまい込んでから内履きをはいた。 「う~ん、でも……父さんがどう言うかな――泊まりがけとなると……ちょっと後で聞いてみるね」 「ああ―――それなら、大丈夫だよ……日向くんのお父さんの日陰さんには――もう許可はとってあるから。でも、どうしても僕は日向くんに聞きたくて……日向くんは海に行きたいの?それとも行きたくないの?」 「……じ、じゃあ……夢月と一緒に……海に行きたい」 「良かった……後で、詳しい事が決まったら教えるね……ほら、もうそろそろ教室に行かないと!!」 ――ぐいっ と、半ば強引に夢月から腕を掴まれると――そのまま急ぎ足で教室へと向かって廊下を走って行くのだった。

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