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第51話

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 「うわ~……すごい大きなお家――夢月、昔は此処に住んでたんだっけ?」 「う、うん……そうだよ―――。まあ、あまり楽しいとはいえない暮らしだったけど……でも、この土忌野村の雰囲気は大好きだったよ……昔からね……あ、薫あにや様だ……」 「薫あにや様……?」 「土忌野家の本家であるこの家の――跡取り息子で長男だよ。因みに、この土忌野家では代々、名前の後に男の人だったら【あにや】女の人なら【ねえや】って付けて呼ぶのが決まりなんだ―――あ、でも日向くん達はお客様だから、勿論さん付けだけで構わないよ?」 大きすぎる門扉の前で、濃い抹茶色のビシッと糊付けされてある立派な袴を着ていて夢月から薫と呼ばれた精悍な顔立ちをしている男の人が立っていた。そして、僕らの姿を一目いれた時から此方を怖い顔でジッと見つめてきたため―――招かれた客とはいえ思わず緊張が走ってしまう。 「ね、ねえ……夢月、もしかして――この間、反りが合わないって言ってたのって――あの怖そうな顔をした薫さんって人の事?」 「ん……ああ、違うよ――僕と反りが合わないのは――薫あにや様じゃなくて……次男の――」 ――ガバッ!! 「わっ……ち、ちょっと……みんな、ふざけないでよ!?どーせ、カサネでしょ……って……だ、誰……ですか?」 僕が夢月の耳元で囁きながら尋ねかけた時――、 ふいに、後ろから体を抱きしめられたためビクッと体を震わせて慌てて背後を振り返った。僕は、てっきり悪戯好きのカサネがふざけていたと思ったのだが――当の本人は楽しそうにシャオリンや藤司さんと話していたためすぐに勘違いだと気付いた。 そして、僕に抱きついてきた見知らぬ男の人は――悪戯が大成功したといわんばかりに誇った笑みを浮かべながら、口に煙草をくわえつつ立っているのだ。 「いや~……大成功!!夢月、お前の友達にこんな可愛い子がいるなんて知らなかったぜ――この可愛子ちゃんの名前は何て言うんだ……さっさと教えろよ?」 「ひ、光あにや様……今日は用でいないんじゃ……なかったっけ?」 光あにや様と呼ばれた男の人に対する様子を見たとたんに、僕は悟った。 夢月と反りが合わないという相手は、初対面であるにも関わらず僕に抱きついてきた光あにや様という人の事なのだと―――。

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