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第52話
「……あの、お客様にこのような事を言うのは憚られるのですが――私も忙しい身ですので、兎に角は中へどうぞ……それと、次男の光が無礼な事をして申し訳ありませんでした」
急に後ろから僕へと抱きついてきた光さんを厳しい蛇のような目でジロリと睨み付けると、薫さんがスッと先程のように能面のような無表情で戸惑っている僕へと謝ってきた。
「……日向、大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫だよ――日和叔父さん。これが光さんていう男の人の単なる悪戯だって……分かってるし――」
「いいや……単なる悪戯なんかじゃない――あの光とかいう男には……色々なモノが――」
ふと、今まで無言のまま此方をジッと見つめてくると、いかにも旧家だといわんばかりに存在している大きくて広いお屋敷に向かう皆に気付かれないように慎重な足取りで僕に近づいてきた日和叔父さんがボソッと耳元で囁きかけてくる。
その日和叔父さんの言葉を聞いて、思わず目を見開きながら光さんの後ろ姿を穴が開いてしまいそうな程に見つめてしまう。しかし、何らおかしい所はない。普通の―――派手なアロハシャツを着ているチャラい格好をした男の人の後ろ姿だ。
光という男の人は【怪異なるモノ】に憑依されている風には見えないのに、何で日和叔父さんは僕にあんな事を言ったのだろう―――。
そんな事を心の中で考えながらも――僕と日和叔父さんは皆の後に着いていき、広いお屋敷の中へ入るのだった。
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