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第54話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「……日向、日向……起きろ―――お前、また気絶してしまったんだぞ……」 「ん……日和――叔父さん?此処……どこ?」 僕が目を覚ました時――まず最初に目に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。そして、次に目に飛び込んできたのは僕の顔を覗き込んでくる大好きな日和叔父さんの顔だ。 「ここは、屋敷の応接間の隣の隣にある部屋らしい。さっき、あのいけ好かない薫とかいう男が気絶してしまったお前をここに運んできてくれた……」 「も、もしかして――叔父さんがこの服に着替えさせてくれて……しかも、看病までしてくれたの?」 「ああ―――それにしても、こんな事は幼い頃に、お前が風邪を引いてしまった時以来だな。だが、あの時とは明らかに違う事があるが……」 「明らかに―――違う事って……何?」 と、そこで急に日和叔父さんが僕の顔寸前まで己の顔を近づけてくる。その光景を目の当たりにして、僕は先程の井戸の前で感じた異変の事など吹きとんでしまいそうになるくらいドキドキしてしまう。口から、心臓が飛び出してしまうのではないかと思うくらいにドクドクと心臓か跳ねている。 「日向―――オレは、お前を…………」 「……っ…………!!?」 ―――ガラッ!!! そこまで出かかった日和叔父さんの言葉は――思わぬ乱入者によって、邪魔されてしまった。その乱入者はニヤニヤと下品な笑みを浮かべて、口に煙草をくわえつつ扉の前で突っ立っている――光さんだった。 慌てて、僕は――日和叔父さんの体を勢いよく突き飛ばした。すると、少しだけ悲しげな表情を浮かべたような気がした日和叔父さんは無言のまま部屋から出て行ってしまった。 「あ~あ―――君、えっと……日向くんだっけ?可愛い顔をして案外酷い事をするんだな~……あの人、お前の叔父さんなんだろ?」 ――すた、 ―――すた、すた…… 下品な笑みを崩さないまま、光さんは真っ直ぐに此方へと向かってくる。何か嫌な感じがして、慌てて布団から起き上がり素早く扉へと向かうのだが、ガチャガチャとドアノブを回しても一向に開く気配がないのだ。 「……っ……か……鍵がっ……!?」 「……人の質問に答えられないような糞餓鬼には、お仕置き――だな。心配すんな、可愛がってやるよ」 背後から―――忍びよってくる鬼のような男に体を捉えられた僕は、そのまま為す術なく再び布団へと強引に押し倒されてしまうのだった。

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