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第55話
――ガチャッ……
「はいはい、そこまで~……光あにや様、薫あにや様が風呂に入れって言っていましたよ――それも、かなりの怒り顔でね。早く行った方がいいんじゃないですか?」
「む……夢月―――!?」
僕が光さんから布団へと強引に押し倒され、このままじゃ絶対絶命だ――と、顔面蒼白になった時―――ふいに、部屋の扉が外側から開いた。
にっこり、と穏やかな笑みを浮かべながら僕を布団に押し倒したままの状態で呆然とする光さんの隙を見て、僕は慌てて彼から離れると――そのまま扉の方に立ったままの夢月の所まで駆け寄って行った。
足がガクガクと震え、体全体も小刻みに震わせている僕を夢月は優しくぎゅうっと抱き締めてくれた。
「……大丈夫、大丈夫だから―――ね、日向くん……何回か深呼吸して落ち着いて?」
「う、うん……」
まるで、子供を宥める母親のように穏やかな口調で夢月は僕へ囁きかけてくれる。僕らのそんな様子を見て気にくわなかったのか、光さんはチッと忌々しそうに舌打ちをすると、そのまま勢いよく扉の方へと近付いてきて、夢月の小さな体にわざとドンッとぶつかってから、荒々しい足音を響かせて――その部屋から去って行くのだった。
「日向くん……光あにや様には、これからも気をつけた方がいいよ――彼、見境がないからさ。ああ、それと実はこの部屋に来たのは他にも用があったからなんだ――これ、日向くんがいつも身に着けてる御守りでしょ……廊下に落ちてたよ?」
「あ……っ……ありがとう――夢月」
と、夢月からそう言われてから―――初めて僕は父さんから貰った大事な御守りを落としてしまっていた事に気付いたのだ。そして、御守りを差し出してくる夢月から、それを受け取ると少し恥ずかしそうに彼へお礼を言うのだった。
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