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第57話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
―――闇夜の田舎道にポツンと所在するオモイガ沼は、土忌野家の人達には申し訳ないが、はっきり言って不気味だった。
しかも、ここは田舎だから尚更なのかもしれないが僕と夢月が暮らしている村よりも生活音というものが感じられず―――とても静かだ。
それが、更に不気味さを助長しているのかもしれない。
――かさ、
――かさ、かさ……
沼に群生する草同士が擦れ合う音しか聞こえてこない。虫の音すら、聞こえてこないため――思わずブルッと体を震わせてしまう。しかし、僕が体を震わせてしまったのは闇夜とあまりの静けさのせいで不気味さを感じてしまうオモイガ沼の雰囲気だけではない。
(さ、寒い……寒い……ここは、この辺りは……酷く寒い―――まるで、冷蔵庫の中にいるみたいだ……)
あまりの寒さから少しでも逃れるため、両腕で体全体を包み込んで尚もガタガタと震えている僕の異変に夢月が気付いたのか、慌てて心配そうな顔をしながら此方へと駆け寄ってくる。
と、そこで―――ある異変に気付いた。
「な、何してるの……危ないよっ……日向くん!?」
チャプッ……
―――今まで夢月の隣を歩いて共に夜の沼は不気味だね、と他愛ない会話で盛り上がっていたのに、いつの間にか僕だけが吸い寄せられるように沼に近付き、そして―――黒く濁りきった水面に足を踏み入れようとしていたのだ。
―――夢月がいてくれて良かった。
そうでなければ――僕はきっと……あのまま墨汁のように黒い沼の中に吸い寄せられ、そのまま沈んでしまうところ……だったと思うから。
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