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第59話

その蛍が綺麗に見える場所というのは、同じオモイガ沼周辺でも先程いた場所とは反対側の方だったため、僕と夢月は暗い道に足を取られつつ慎重に歩いてきたのだ。 「うわ~……本当に綺麗な蛍たち。それに、この白い花も――とっても綺麗だね……夢月――どうかした?」 「う、ううん……大丈夫だよ――日向くん。でも、この蛍たちを見てると……つい、いなくなってしまった蛍あにや様の事を思い出しちゃって……ごめん、ごめんね……日向くんには関係ない事なのに―――」 いつも、あっけらかんとしていて――苦悩や悲しみなど今まで滅多に現したことのない夢月が珍しく目に涙を溜めながら切なそうに僕へと謝ってきた。 「―――な、何で夢月が謝るの?苦しい事や悲しい事は心の中に溜めてちゃ駄目だよ――夢月、君にとって……蛍さんって……どんな存在だったの?僕に話してよ……だって、それが親友ってものじゃないか!!」 「―――蛍あにや様は僕に辛くあたってくる光あにや様から守ってくれていたんだ……とても優しい人だった。でも、光あにや様はそれが気にくわなかったのか蛍あにや様にまで辛くあたるようになっていった―――それに、それに……」 と、夢月はここでピタリと言葉を止めた。その顔には戸惑いが浮かんでいる。言いたいけれど、なかなか言い出せない――そんな夢月の心情が何となく伝わってきたため、僕は少しでも動揺したままの彼から次の言葉を引き出そうと――ポン、と軽く肩を叩いた。 「……蛍あにや様がいなくなる前の日に――光あにや様が、このオモイガ沼に蛍あにや様を連れ出すのを見たんだ―――それに、その後口論している二人を……僕はこの目で見たんだ――こんなこと怖くて今まで誰にも言えなかった――きっと、光あにや様が……蛍あにや様を沼に……っ……」 ――リーン、リーンリーン…… ――ジィィーン……ジッ……ジッ……ミィィィ―ン…… と、その時―――唐突に僕らがいる場所の近くから大音量の虫の音が響き渡る。その虫の音の大合唱を聞いた途端に、先程までは大分マシになってきた異様な寒気が、再びぶり返して油断しきっていた僕を容赦なく襲いかかってくる。 「日向くん、大丈夫―――もしかして、寒いの?ここは、水辺だから寒いのも無理はないよね……そろそろ屋敷に戻ろうか?風邪でも引いたら―――大変だし……ね?」 「う、うん……そうだね、夢月の……言うとおりにする……よ……」 ガチ、ガチと歯を鳴らしてしまうくらいの寒気のせいで上手く口が回らない僕を心配して気遣ってくれたのか、夢月は――おもむろに羽織っていた上着を被せてくれた。 そして、相変わらず優しい笑みを浮かべてくれたため僅かばかり安心した僕は親友と―ーー思いがけずに飼う事となってしまった忌髪魚と共に屋敷へと戻って行くのだった。

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