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第61話
「何だよ……この汚ねえのは――御守りか、これ?しかも、これ……手作りだよな――へったくそで反吐が出そうだぜ」
「か、返して……それを――返してくださいっ……!!」
真っ黒な夜の林の中でも目立つアロハシャツ。赤いハイビスカス柄が、白いライトの光で全てを飲み込んでしまいそうな闇夜には似合わないくらいにハッキリと浮かび上がっている。
その人物―――光さんはニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら片手にライトを持ち、泥まみれになってしまった御守りを拾おうと手を伸ばして必死で取り返そうとしていた僕の体を足蹴にする。
そして、侮蔑した表情を浮かべつつ――大切な父さんから貰った御守りを、まじまじと見つめていたのだが、急に――蛇のように醜悪で恐ろしい瞳を、情けなくも地面に這いつくばったまま惨めな姿を晒している僕の方へと悪意ある目線を向ける。
その光さんの目線は――子供がふっと悪戯を思い浮かんだような無邪気さからくるものではなく、明らかな悪意と蜘蛛の糸に引っ掛かってしまっている獲物のような僕を困らせてやる、という下卑た企みを持ってのものだ。
「―――そうだな、まあ俺には……こんな汚ねえ御守りなんて、どうでもいい。ただ――」
――ジャリッ……
――ジャリ、ジャリッ……
ゆっくりと―――獲物が怯える姿を楽しんでいる猛獣のように、じわりじわりと地面に横たわる僕の間近へ近付いてくる光さん。
「今は邪魔な夢月の野郎もいねえし――長い夜を楽しもうぜ……可愛い可愛い日向ちゃん?」
「やっ……やだっ……!!」
静寂に包まれた夜の林の中に―――草が擦れ合う音と乱暴に服を引き裂く音が響くのだった。
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