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第64話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ドサッ……
「おい―――大丈夫か、日向ちゃん!?」
「うっ……く……ひっく……カ、カサネ…………ご、ごめん……ごめんねっ……」
「―――馬鹿野郎、何で日向ちゃんが謝るんだよ……悪いのはあの変態野郎だろうが……ほら、これでも被ってろ……流石に、その姿は……その……セクシーすぎるからな」
――バサッ
カサネが助けに来てくれた安堵から気が緩み、泣きじゃくっているせいでうまく言葉が話せない僕の体へカサネが羽織っていた上着を少しだけ乱暴に放ってきた。
「…………」
「…………」
暫く、気まずさから無言の状態が続く。
「な、なあ……日向ちゃん――聞きたい事があるんだけどいいか?」
と、少ししてから先に口を開いたのはカサネだった。そうであるにも関わらず、余程聞きにくい事なのか――何度か口を開いては閉じるという行為を繰り返すカサネ。
「う、うん……いいよ……聞きたい事って――なに……」
「―――日向ちゃん、オレのヤドリギであるヒヨリに……その……こ、恋してんのか?あのヤドリギと――本気で特別な関係になりたい、とか思ってんのか?」
「えっ…………な、何でそんな事を……聞くの?」
ざあっ、と強い風が吹いた―――。
そして、それが止んだ瞬間に普段は夢月に負けず劣らずおちゃらけているカサネが今まで見せた事もないような真剣な顔で真っ直ぐに僕を見つめてくる。
「―――異様、だからだよ。血の繋がりのある叔父に惚れている日向ちゃんも、それにそれを受け入れつつあるオレのヤドリギのヒヨリも――何よりも……」
「……わっ…………!?」
「今まで下等なニンゲンなんかに興味なかったオレが……日向ちゃんに特別な感情を抱いていることも……日向ちゃん、オレはお前が本気で……す、す……き」
思わず、僅かに頬を赤く染めているカサネの唇を塞いでしまった。すると、少しだけ悲しげな笑みを浮かべたカサネは――それ以降、何も言う事はなくポン、と軽く僕の肩に手を置いた。
「ん……分かった。今ので日向ちゃんが――どれ程にあのヤドリギが好きなのか分かった……ってことで、日向ちゃん――ちょっとごめんな?」
「ご、ごめん……カサネ……。えっ……?」
チュッ……
額に触れるだけの優しいカサネからのキスを受けて、僕は胸の中で罪悪感がひしめいた。
しかし、そんな事は気にするなと言わんばかりにカサネは軽々と僕をおぶると――そのまま屋敷まで歩いて行こうとするのだった。
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