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第69話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 『――なた……ひな……た……起きて……』 少しだけ怒っているような、僕を呼ぶ誰かの懐かしい声が――聞こえてくるような気がする。 早く――早く……目を覚まさなきゃ――学校に……遅れちゃう――今、今……目を覚ますから、そんなに怒らないでよ…… ――――母さん…… ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 目から涙を流しつつ、目を開けた僕の目に真っ先に飛び込んできたのは―――雲ひとつない透き通った青空と、僕の唇に己の唇を当てながら海だというのに水着を着ていない日和叔父さんの目を瞑った顔――そして、おろおろしている夢月、カサネ、父さんの慌てふためいてる様子だった。 (あ、あれ……僕、どうしたんだっけ……そうだ、確か―――海の中から沢山の小さな手に引きずり込まれそうになって――それで……それで……) ―――駄目だ、これ以上は思い出せないと思った瞬間に息苦しさが襲いかかってきたため、日和叔父さんの唇が離れると、そのまま盛大に咳き込んでしまった。 「日向―――大丈夫か?」 「う、うん……あ、ありがとう……日和叔父さん……で、でも……ちょっと苦しいよ」 おそらく、人工呼吸をしてくれた叔父さんに感謝の言葉を告げたとたんに、真面目な顔をしながらギュッと僕の体を抱きしめてきてくれたため僕は溺れかけて命の危機にまで瀕していたというのに舞い上がりそうな気分になってしまうのだった。

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