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第70話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「―――日向、少しいいか?お前に話しておきたい事があるんだが、具合は良くなったのか?」
「お、叔父さん……う、うん……横になってたから大分良くなったよ。それよりも、話しておきたい事って何?」
あれから、海岸を後にした僕らは屋敷まで戻ってきた。そして、溺れかけた僕は皆から問答無用で布団に横にさせられた。それのお陰で大分具合の良くなった僕は開け放たれた窓の外から聞こえてくる騒がしい蝉の声を聞きながら――側に置かれた《忌髪魚》が優雅に泳いでいる水槽をボーッと見ていた。
すると、突然―――部屋の扉がコンコンとノックされて日和叔父さんが入ってきた。しかも、とても深刻な顔で僕の顔を見つめてくる。
「話しておきたいというのは、今起こっている非常事態についてだ―――特に日向、お前にだけは絶対に話しておかないといけない」
「ひ、非常事態……?」
「先程、お前を海の中へ引きずり込もうとしたのは……間違いなく【怪異なるモノ】の仕業だ。しかし、今までのモノとは違い―――私はこの海を舞台にした作品は書いていない。つまり、【怪異なるモノ】が、どのような攻撃をオレ達にしかけてくるのか、そしてどのような対処をすればいいのか、という事が全く予想できない……日向、これからは四六時中――オレと共に行動しろ……特にこの村では―――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
と、いうような話を―――日和叔父さんに聞かされた後、僕はカラスの鳴き声が鳴り響く夕暮れ時の田舎道をとある場所に向かって叔父さんと共に手を繋ぎながら歩いていた。叔父さんの優しくて暖かな手がギュッと僕の手を握ってくる。
「―――それで、祭りがあるという場所は……この先にある神社なのか?」
「う、うん……薫さんから祭りの手伝いを頼まれて海に行けなかった藤司さんが言ってたから――間違いないよ……それにしても、夢月ったら……水着だけじゃなく、こんな物まで用意していたなんて……恥ずかしいよ」
夢月の悪戯により、水色の生地に黄緑の帯――そして大輪の向日葵の柄が描かれた女物の浴衣を着た僕が火傷してしまいそうな顔をしつつ、照れくさそうに叔父さんへと言うと――彼はピタリと足を止めて真剣な表情を此方へと向けてくる。
「―――どうしてだ、とてもよく似合っているぞ……日向」
「そっ……そんな……そんな事ないって……叔父さんまで冗談言わないでよ!!」
―――ドォォォンッ……
パラ、パラ、パラ……
あまりの照れくささから慌てて叔父さんの方から顔を背けた時――万華鏡の色とりどりな形や鮮やかな色をしたビーズのように綺麗な花火が夜空に舞い上がった。僅かに暗くなりかけていた辺りが、花火の光で淡く照らされ―――叔父さんの表情が露になる。
叔父さんは―――今までに見た事がないくらいに顔を真っ赤にさせて、僕の浴衣姿を見つめてくれていた。
「日向……オレはお前を―――愛し……」
「お、叔父さ……んっ……!!?」
―――ドォォォンッ……
二度目の花火が打ち上がったとたんに――日和叔父さんからぐい、と引き寄せられるとそのまま僕の唇に生暖かな日和叔父さんの唇が押し当てられるのだった。
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