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第72話
シャン……シャララランッ……
シャリンッ……シャンッ……
夢月曰く―――沢山の鈴が巻き付けられた柊の木の枝を両手で持ちながら薫さんは雅楽に合わせながら優雅に御子舞を踊る。御子舞とは、この土忌野村で亡くなった子供たちの魂が無事に天国にいき安らかに成仏できるように神へ祈りを捧げるための行事らしい。それと同時に、不慮の事故や災害――そして、理不尽に葬られた哀れな子供たちの魂を救うためでもあるのだとか―――。
(そういえば―――さっき、僕が海で見たあのお地蔵様……とても小さかった……彼らの無念が今も海の側をさ迷い続けているってことか―――でも、これで彼らの魂も救われるって事……だよね……)
と、そこで僕は―――先程までは感じなかったある異変に気付く。御子舞を優雅に堂々と舞い
続ける薫さんの細い首、雪のように真っ白な衣装を身に纏った胴体、そして細長い美しい両足に――小さな黒いモノがまとわりついているのだ。
よくよく目を凝らしてみれば、それらは舞い続ける薫さんに必死でしがみついているようにも見える。大きさは、ばらばらだけれども赤ん坊や小学校低学年くらいの子供のような形をした黒いモノが楽しそうに舞いを続ける薫さんにしがみついている。それだけでなく、何体かは――薫さんが舞っている脇で雅楽に合わせながら、はしゃぐように薫さんと同じ動きを繰り返しているを
『ほんに、薫様は美しや……。あんの次男の馬鹿息子とは全然違うやな――あんの厄介もんの光とかいう馬鹿もんは……ふらふらと遊び回っているだけで――何の役にもたたんがや……村の子供らが次々に失踪してんのも――あの馬鹿もんが…………』
『しっ……そんなこと言うと――神さんに呪われっち……だども、おめさんの言うとおり光様はこの村にとって疫病神だがや……。お、おい……あれっ……!?』
『あん……何やね……って……あげな所に噂の疫病神がおるっち……兄である薫様の舞でも見にきたんか?あんの土忌野屋敷の疫病神の光とかいう馬鹿息子が―――』
―――僕らの脇にいる村人たちが声を潜めながら、そのような会話をしているが薫さんの異変に気付いた節はない。それどころか、周りの皆も一様に薫さんの舞いに見入っているくせに―ー全然、気にしている様子などない。
(き、気のせい……いや、でも……確かに見えるのに……)
と、ごしごしと目を擦ってから改めて薫さんを見てみようと思った時ーーふいに脇にいる二人の村人が発した言葉にビクッと体を震わせてしまう。
ちら、と二人の村人たちが指差した方へ目をやるとーーーそこには、微動だにしていない派手なアロハシャツを着て此方を凝視している光が暗い木の下で突っ立っているのだった。
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