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第74話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ――リー、リーン…… ――リーン、リーン、リーン…… あれから、皆で屋台を回りまくった僕らは流石に疲れたため暗い夜道を提灯の明かりだけを頼りに帰路についていた。 リーン、リーン……と何処かから鈴虫の儚げな鳴き声と草の擦れ合う音が聞こえてくる。そして、先程までは曇り空に覆い隠されていた煌々と輝く満月を見上げながら――塗装されていない土の道を僕らはひたすら真っ直ぐ歩き続ける。 「あ~……楽しかったね。ほら、金魚すくいでこんなに沢山とれちゃった……あの金魚すくいのお店のおじさん、僕らが子供だからって甘やかしすぎだよ……ね、日向くん!!」 「う、うん……た、確かにこんなにいると――綺麗だけど……ちょっと……」 (魚特有の目がたくさんあると少し気味が悪い―――) と、言いかけて―――思わず口をつぐんだ。 流石に、それを言ってしまっては――金魚達に失礼だ。金魚すくいの金魚達だって望んで此処にいる訳じゃない――。人間達を楽しませる娯楽のため、というある意味で偏った《欲望》ともいえるものを満足させるために水槽にいれられているだけなのだから。 「ね、ねえ……夢月―――黒い出目金だらけの金魚すくいって珍しいよね……土忌野村では普通なの?」 「あ、そうだよ……もしかして、日向くん――黒い出目金は苦手だった?」 「え、ど……どうして…………?」 どうやら、必死で隠そうとしても表情に怯えが出てしまっていたらしい。夢月は僕が暗い出目金だらけの金魚すくいの袋をさっと後ろに隠してくれた。 「だって、日向くん―――震えてるから。本当にごめん――なるべく、日向くんの目につかないように僕の部屋で飼うことにするね……あと、もしも他に苦手なものがあるなら包み隠さず僕に言うこと!!僕は―――日向くんの親友なんだから」 「うん……そうだね、これからはそうするよ。ありがとう、夢月―――」 ―――ザッ……ザッ…… と、そんなやり取りをしていると前方を歩いていた日和叔父さんが僕らの方に振り返り―――、 「日向―――さっさと屋敷に帰るぞ。それと、オレの元からなるべく離れるな……とそう言った筈だ」 「ち、ちょっと……日和叔父さん!?」 ぐい、と腕を掴まれ―――そのまま、半ば強引に引き寄せられると夢月を置き去りにしてしまいそうな勢いで叔父さんやカサネ達と共に夢月よりも先に屋敷へと戻るのだった。

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