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第76話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 次の日の朝、僕が目を覚ました時――目に飛び込んできたのは飼うために夢月が捕ってきた《忌髪魚》が泳いでいる筈の水槽と、相変わらず屋敷の何処かから周囲に漂い続ける強烈な生臭さで――しかも、先日よりも生臭さは更に強くなっているような気がした。 と、その時だった―――血相を変えて真っ青な顔をしている夢月が慌てふためいた様子で僕の部屋へと飛び込んできたのだ。普段ならば、ノックをかかさないしっかりとした夢月が珍しくそれすらも忘れてしまう程に落ち着きがない様子で部屋に入ってきたためギョッとしつつも布団に入ったまま夢月の姿を凝視する。 どうしたの、と僕が尋ねかけた時――夢月が重々しく口を開き―――、 「光あにや様が―――行方不明になったんだ……日向くん……光あにや様がどこに行ったか心当たりは……ないよね?」 「えっ…………!?」 その言葉を夢月から聞いた時、とてつもなく嫌な胸騒ぎがした。 ―――いるはずの水槽から《忌髪魚》が消え去ったこと。 ―――夢月の部屋にある筈の水槽が、何故か朝起きたら僕の部屋に置いてあったこと。 ―――昨夜、神社のお祭りで見た光の異様な姿。 ―――そして、この屋敷の何処かから漂う強烈な生臭さ。 何か、得たいのしれない胸騒ぎを覚えた僕は半ば自分の意思に反してゆっくりと布団から出ると――そのままナニカに導かれるようにふら、ふらとした足取りで真っ直ぐに屋敷のとある場所へと歩いて行くのだった。

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