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第77話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(やっぱり――僕の鼻がおかしくなっていなければ……この魚が腐ったような異様な生臭さは……この井戸から漂っているような気がする―――でも、どうして……)
ふら、ふらとした足取りで僕とその後を慌てて追いかける夢月が向かった先―――。
それは屋敷の中庭にポツンと存在している古びた井戸の前だった。どうにもおかしい、と感じたのは井戸にはしっかりと石で作られた蓋がしてあり、勇気を奮い立たせて夢月と二人で外そうとしてみたものの――子供二人の力では到底外せそうにないくらいにピッタリと頑丈に填められている。
それにも関わらず、隙間がない筈の井戸の中から、どうしてこの強烈な生臭さが漂っているのだろうか―――。
さて、どうしたものか―――と悩んでいたところ、ちょうど良いタイミングで日和叔父さんと父さん、そしてこの屋敷の跡取りである薫さんが駆けつけてきたため、この井戸の中から生臭さがするため井戸を開けてもよいか、と許可を取る。最初は中々屋敷の中に漂う生臭さを彼らに信じて貰えなかった僕だったが、その僕の真剣さに観念したのか、それとも夢月の必死の説得のおかげか分からないが――とにかく井戸の蓋を開ける許可は取れたためホッと安堵する。
「よし、開けるぞ―――」
大人三人でようやく蓋が持ち上がっていき――やがてゆっくりと井戸の中の様子が露になっていく。
「ね、ねえ……日向くん、あそこに落ちてるあれ……何かな?」
「―――えっ!?」
ふと、夢月が僕に話しかけてきたため彼が指さしている方向へと目を向けた。そこには――僕にとって見覚えのある懐中電灯が落ちていた。
(あの懐中電灯はーーそうだ、あの僕を襲ってきた夜……光さんが持っていた物――)
「う、うわぁぁぁぁ……っ……」
と、懐中電灯が落ちてる方向に目を向けていた僕の耳に鼓膜が破れてしまいそうになるくらい大きな父さんの叫び声が響いてくる。
「ど、どうしたの……父さ……ん……っ……!!?」
「や、止めろ……止めろ――日向、お前は……お前は見るんじゃない!!」
井戸の中を覗き込んでいた筈の父さんが中を見た瞬間、腰を抜かせて地面に尻餅をついたため慌てて駆け寄ってきた僕はひょいっと井戸の中を覗き込む。
―――無惨な状態の生前とは変わり果てた光の遺体が井戸の底に浮かびあがっている異様な光景が僕の目に飛び込んでくるのだった。
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