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第80話
僅かに残っている黒い水、そして黒い泥と黴にまみれ、井戸の底にぐったりと横たわる――かつては人だった筈の無惨で奇妙な《光》という名を持っていた遺体―――。
井戸の水抜きがされた事により、かつては光だったモノの異様で奇妙な遺体の状態が明らかとなり、容赦なく僕の目に――いや、井戸をおそるおそる覗き込む皆の目に飛び込んでくる。
―――ソレのかなり茶色がかっていた髪の毛は何十匹もの《忌髪魚の群れ》によってむしゃ、むしゃと乱雑に食い荒らされ……大半の頭髪がごっそりとなくなっている。
―――ソレのカッと見開かれた両目は白目全体が充血しきっており、まるで死の直前に恐ろしいモノでも見たかのように恐ろしい表情を浮かべている。
―――ソレの来ている派手なアロハシャツには不思議と破れた箇所はない。アロハシャツを身につけている上半身よりも、むしろ下半身の方が異様だ。本来であるならズボンを着ている筈の下半身を覆うように黒く艶やかな長い髪の毛がズボンどころか下着すら履いていない其所にぐる、ぐると巻きついているのだ。僅かな隙間すら見えない。
―――ソレの大きく開かれた口に僕も見覚えのあるある物が無理矢理詰め込まれている。人間の口はああまで開く物なのかと思ったが、よくよく見てみると口の両端が結構な深さまで刃物で切りつけられたのか既に変色し赤黒くなった血が口元にこびり付いているのが分かった。
(あ、あれは――あれは……あの日、僕に襲いかかってきた時に脅すために持ってた……カメラだ――それが……無理矢理引き裂かれているアレの口の中に……なんで……なんでっ……)
真夏だというのに体全体にぞわっと鳥肌がたち寒気を覚え、あまりの恐怖と不安から真っ青になりガタガタと震えている僕を嘲笑うかのように真上から太陽のギラギラとした光が降り注ぐのだった。
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