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第85話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「……爺や、やれ」 「畏まりましただ……薫様――いいえ、村の新たなる支配者……大旦那様」 ――ふしゃぁぁぁっ……ふしゅーっ…… 「……っ…………!!?」 その怪しげなやり取り聞いた後、上から旦那様と呼ばれた薫さんが照らしているライトの光があるモノを照らした。 そして、その途端に恐怖から歪みきった僕の顔に――毒々しい程に強烈な緑色の霧がライトの光に照らかれた得たいの知れぬモノの口から勢いよく噴射される。しかも、強烈なのは色だけではなく――気絶してしまいそうになるくらいの不快な匂いを放っていた。例えるならば――ドブ川の匂いか、或いは……腐敗しきった人の亡骸のような匂いだ。 ――と、そこで……僕はその得たいの知れなかったモノの正体に気付く。 途徹もなく巨大な―――黒い蜘蛛だ。 しかし、顔は昼間に見た爺やの――ぱっと見ただけでは普通の人間にしか見えない顔だ。だが、口元は大きく裂ききっており、よくよく見てみると――何かを口の中で飴を舐めるかのように動かしている。 ――既に白骨化しきっているであろう人間の白い頭を丸ごと飲み込み、飴玉を舐める子供のように満足げにしゃぶっている巨大な蜘蛛がいるのだ。 「ひっ……ひいっ……そ、そんなっ……そんな……」 【ああ……薫様のお父上であり、大旦那様だった御方の……しゃれこうべは旨いですのお……薫様――このようなご褒美を……ありがとうごぜえますだ……】 「戯れ言はよい……さっさとこの忌まわしき邪魔な余所者を……爺やの【呪場】へと誘え――そろそろ、時刻も調度いい……頼りにしているぞ」 ふっ――とライトの光が唐突に消え去ると――そのまま半端ない恐怖と不安に襲われる僕の意識も徐々に――段々と薄れていく。 ~♪~♪♪♪……~♪♪~♪…… 完全に意識を手放しきる直前に――爺や……いや、今は既に人間ですらなくなり、かつては爺やだった筈の巨大な蜘蛛が先程まで口ずさんでいた歌が僕の耳に微かに聞こえてくるのだった。

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