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第86話

◆ ◆ ◆ 「んんっ……こ、ここは……っ……」 ふっ……と目を覚ました時、僕の目に飛び込んできた光景は異様としかいえないようなものだった。 まず、肌に感じたのは――身を震わさずにはいれない程の異様な寒さだった。まるで、冷凍庫の中に何時間も入れられているような程に冷たさがその身に突き刺さる。 辺りが薄暗く霧が漂っているとはいえ、冷たさを感じるような強い雨や――まして、雪が降っている訳ではないと――そのくらいは異様な光景を目の当たりにしたばかりで混乱しきっている僕でも分かる。 混乱しているせいで、いつもよりも回りきらない頭の中で――何故、こんなにも【異様な寒さ】を感じるのか疑問に思っていると、ふっとある考えが浮かんできた。 ー―風、だ。 僕の体を目掛けて集中的に吹き付けてくる風が――この【異様な寒さ】を感じる原因なのだ。 その時――、 【以津真天~……以津真天~……】 と、何処からか――恨めしげに呻く女性の声が聞こえてくる。しかも、その声は一つだけでない。 ――大勢の女性の呻く鳴き声が合唱しているように辺りに響き渡るのだった。 その時、何故――今まで気付けなかったのかと自分でも疑問に思う程に奇怪な状況に気付いた僕は体だけでなく顔までも真っ青になってしまう。 (僕の両腕が――何かに縛りつけられてる……しかも、何で……何でこんな……大きな樹の枝に――っ……いや、両腕だけじゃない……僕の体全体が……蜘蛛の糸で縛られて大樹に縛られているんだっ……) ぴちょんっ……ぴちょ……っ…… 「つ、冷たいっ……!!」 ふと、上から何か冷たい雫のような物が落ちてきて僕の頬を濡らした事に気付いたため――思わず目線をそちらへと向けつつ叫んでしまった。 すると、薫さんから【爺や】と呼ばれていた大蜘蛛が、にいっと口元を大きく歪ませて笑みつつ獲物を目にして歓喜に満ちた獣のような優越感を露にしているといわんばかりに――先程から怯えきっている僕をじいっと見つめてくるのだった。

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