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第91話

――ぶっ……ぷっ……!! ――じゅわぁぁ~…… 帯の大海から勢いよく飛んできたナニかの気配を敏感に察知した【爺や】は負けじと涎まみれの口を大きく開けると、その蛇のように長い舌でナニかを絡み取り――じわ、じわと溶かしていき難を逃れる。 「……っ……こ、これ……か、かみのけ……の……たば……っ……!?」 僕のすぐ側で繰り広げられた【ナニか】の攻撃を防ぐ【爺や】との攻防のせいで、僕の顔にぱら、ぱらと黒い細長いものが止めどなく降りかかってきて――思わず目を固く瞑りつつもポツリと呟いてしまう。 ふと、髪の毛らしいてナニかが降りかかってくるのがピタリと止んだことに気付いた僕は恐る恐る目を開けて――髪の毛らしいナニかが飛んできた帯の大海の方へとチラッと目線を向ける。 「し、しゃ……お……りん……まさか――さっきのは……きみの……かみ……のけ……っ……」 僕が帯の大海へ目を向けた途端に、先程までぐったりとしている風だった小鈴の様子が違う事に気付く。いや、目をカッと見開きながら僕を襲う【爺や】をきつく睨み付けているという様子だけじゃない。先程まで、長い長い腰まであるような髪の毛を帯の大海の流れで漂わせていた小鈴の髪の毛は――ざんばらのおかっぱ頭となり果て、かなり短くなっていたのだ。 僕を【爺や】から守るために――、 カサネよりも明らかに臆病である小鈴は勇気を振り絞って自分の髪の毛で【爺や】を攻撃してくれたのだった。

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